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新弥のDAYS'
2006年4月24日更新サンマリノの決闘
<F1帝王シューマッハーの無愛想>
男と男が世界一をかけて1対1で戦うシーンは、それがどんなスポーツであっても見る者の本能をかき立てずにはいられない。
かつては、そういう場面がふんだんにあったが、スポーツの質が高まりすぎたせいか、逆に集団から抜け出していく強者の存在が少なくなったせいか、最近では本当に質の高い闘争がそうは見られなくなった。
かつては、そういう場面がふんだんにあったが、スポーツの質が高まりすぎたせいか、逆に集団から抜け出していく強者の存在が少なくなったせいか、最近では本当に質の高い闘争がそうは見られなくなった。 23日のF1「サンマリノGP」(イタリア。イモラ)をテレビで観た。文字通りの「息もつかせぬ」クラッシックなデュール(決闘)だった。
マシンの速さではルノーのアロンソが勝っていたが、巧みなピットインのタイミングと驚異の集中力で、旧帝王M・シューマッハーが延々と追いすがるアロンソを抑え込み、逃げ切り勝ちを演じた。
フェラーリの作戦勝ちでもあったが、焦ったルノー陣営が2度目のピットインを早める奇襲に出たのがポイントになった。奇襲は失敗し、自滅する形で勝負が決まった。若いアロンソは「おれこそ05年チャンピオン」という自負と自信からシューマッハーを抜こうと試みたが、残り8周で少しブレーキングにミスを犯し、残り4周で、シューマッハーに接近しすぎたせいか、コーナー出口で外にはらみ、その時点で逆転をあきらめた。レースが決まった。
シューマッハーは、かつてはセナに送り込まれた刺客として、憎まれ役だった。けれどセナの事故死の後、覇権を握ったのはこの男だった。
少年時代から冷静で、よけいなことをしない、無愛想な選手だった。マカオでF3のレースに出て、ハッキネンが自滅するのを待って勝つのを見たことがあった。憎たらしく、いつも自分とそれを取り巻く環境を高い視点から眺めるもう一つの座標を内側に持ち歩くような、そういうタイプだった。
連覇が続くと、「もう勝たせるな、F1の人気がなくなる」とまで、陰ではささやかれたが、帝王シューマッハーは勝って歌ったり、負けて吠えたり、オフの活動で話題を集め、それを自分のギャラに跳ね返そうとするタイプではなかった。
より速く走り、より多くの勝ち星を挙げることにしか、興味を示さない帝王だった。
昨年はアロンソに王座を譲ったが、今もその「シューマッハー流」の生き方、走り方に変わりはない。
私生活では穏やかで、和やかだと聞いているが、仕事では余計なエピソードや、とってつけたようなありがちなエピソードに彩られることを拒否し、ひたすらに走り抜いてきた。
本当のプロとは何か。シューマッハーは示している。プロは、無愛想でいい。
どのように見られようが、書かれようが、あることないことを噂されようがーーどうせ人は自分の都合で他人のイメージを固定するのだーー、好かれようが嫌われようがーー速すぎれば嫌われるのは当たり前だーーシューマッハーは気にもしてこなかった。
昨年、このサーキットでアロンソが逃げ、シューマッハーが背後をつつき回すラスト12周があり、結果的にはそれが年間勝者の行方にも影響した。シューマッハーは今回のレース後、「このコースで抜けないことは、私がいちばんよく知っているからね」と、微笑した。ピットインの作戦でアロンソの先行を許さなかった時点で、この日の勝利は確定したのだと、明言した。
通算85勝(予選1位66回)。
むろん、シューマッハーが1つでミスすれば、ドラマの筋書きは台無しになってしまうのだがーーここはフェラーリのホームであるーーシューマッハーは憎いほどミスを犯さず、追う側に逆に焦りを導いた。まさに「はまり役」の日でもあった。
だからアロンソはピット陣営の判断ミスを怒っていた。ここではコース場では抜くことができないのだ、と。
シューマッハーの冷静な逃げ方に隙を見いだせなかった自分にも、少し腹を立てていたのかもしれない。
パーマー対ニクラウス。プロスト対セナ。ロバーツ対フレディ。ボルグ対マッケンロー。ルイス対ジョンソン。ブラジル対イタリア(94年)。
質の高い王者による質の高い決闘は、スポーツの質を高めてきた。
低次元の試合をさも高次元の戦いのように見せかけ、感動し合う限りは、スポーツはどんどん質を落としてしまう。質とは何か、何が低次元なのかすら、分からなくなる。「なんとオ」「実はア」「秘密がア」といった修飾語や、司会者と解説者の「話のなぞりっこ」がなければ伝えられない、惨めな見せ物になりさがってしまう。
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、59歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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