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新弥のDAYS'
2006年4月29日更新福原愛の成長
<スポーツ精神の日本のリーダーに>
思えばいつの時代にも、日本のスポーツを代表するにふさわしい、心の先導者、精神のリーダーがいた。
(敬称略)柔道の山下、スケートの橋本、柔ちゃん。かつては王がそうであったし、瀬古もそうだった。
単に強いからではない。ありふれた「強さの秘密」的なエピソード、伝説神話のたぐいとは別次元の、何かこう、びしりと貫いた正義感と人生観を感じさせる人たちだ。自分はあんな風には強くなれないが、せめてああいう精神、ああいう姿勢で生きたい、スポーツしたいと思わせる人たちだ。
五輪競技がプロ化して、サッカーが華やかな団体競技の魅力を展開した今、昔風に言うアマチュアリズムとかスポーツマン精神といったもので「スポーツが社会に影響を与える」ことは少なくなった。
金ではない、出世ではない、といった人生の根源部分は、社会自身の中では見いだしにくい世の中になった。それを鮮明に打ち出し、印象づける役割がスポーツにはあるのだが、その役割は果たしにくくなった。
本来は「結果がすべてではない」ということもスポーツが世の中に提示するべきなのに、今は逆に、スポーツが成果主義を極端な形で社会に押しつけているような結果になっている。勝てば官軍、勝てば感動。
強いことは強いが、強いだけではない人。
そういう印象を与える選手を、マスコミも提示しにくくなっている。
世界卓球(ドイツ)で福原愛がすばらしいスポーツをしている。スポーツのすばらしい面を見せている。
28日、日本のエースとして準々決勝進出を決める立役者になった。
1番目に出場した福岡が、使ったラケットの接着剤が規定以上だったという理由で反則負けになった。接着剤が体に悪いので、よく乾かしてから使うことになっているらしい。そうしたのに、なぜか規定量以上が検出されたという。詳細は不明だが、残念だった。
2番手の福原は、4番目にも出場し、「動揺している福岡に回さないで勝ちたい」と、必死で2勝した。ベンチに戻って「何を泣いてるの、ラケットはしようがないじゃない」と励ましたそうだ(29日付け日刊スポーツ)。そして「たまたま私がそういう役回りをしただけ。いいとこどりかしら」と、エースとしての文句ない仕事を謙そんしたという。
福原の連日の言葉を聞いていると、「なんて大人になったのだろう」という気がする。強さとは別のオーラを発している。
それは勝っておごらず、昂ぶらず、舞い上がらず、冷静に自分の仕事を見つめ、集中しているからだろう。集中を連続する努力を惜しまないからだろう。真剣だからだろう。
一時期、こんなわがままではどうしようもない。マスコミがちやほやしたおかげで、この子はまもなくだめになると感じた。そのように断言するのはさすがにためらわれたが、彼女についた中国のコーチが同じ事を指摘し、本人にも親にも「卓球への取り組みの姿勢を改めよ」と激怒して命じたと聞いている。
騒ぎの中で自分を泳がせ、騒ぎに対応して活躍しようとする風が、少女だった頃には確かに見られた。「この道しかない、この道を行くのだ。他のものは何も要らない」という決意に欠けていたように感じた。
それが、今はまさに勝つこと、活躍すること、人気者になることなど全く眼中にない(ように見える)。ひたすらに「より強くなりたい」というまっしぐらの精神が、見る者の胸を打つ。中国で「自分ぐらいの選手はざらにいる」有様を観て、本能に火がついたのかもしれないが、さぞ困難な道だったに違いない。つらい思いの日が続いたに違いない。
矛盾するが、日本を代表するような選手には「何を語るか、表現するか」という複雑なテーマも、否応なしに与えられる。すばらしい人格でも、言葉が不的確だと宝も持ち腐れになり、いいようにイメージを作られがちだ。
今の福原愛は、言葉も知っている。自然に出てくるのだろう。苦しんで苦しみ抜いてもまだ戦い続ける、たとえばスケートの橋本聖子、岡崎朋美らに見受ける「スポーツの核心部に触れた」自信さえ感じる。この年(17歳)でよく「道」を見つけたなと恐れ入る。
チャラ系予備軍だったような時期と比べると、感無量だ。ご両親とコーチ、関係者が、このためにどれほど苦労したかと思いをはせると、またそれらの方々に頭が下がる。
卓球にっぽん、だけではない。スポーツにっぽん(新聞のことではないよ)全体のスピリチュアルリーダーとして、さらに精進してほしいと思う。
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、59歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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