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新弥のDAYS'
2006年5月13日更新意図的な肉離れ?
<非科学的=間違い、とは限らない>
ヤンキースの松井が、けがで戦列を離れることになった。気の毒だが、野球というスポーツが初めから持っている危険との遭遇で、ファンの側は回復を待つしかない。
危険球で相手をののしる選手もいるが、危険球もまた野球の内側の要素で、意図的などうかは、相互に察知できるものだ。故意でない限り、これもまた受け入れるしかない。
世の中、受け入れるべきことだらけだが、それが人生だと思えば腹は立たない。理不尽や不運、不幸を受け入れる必要はないという理論で武装した人生観だと、いらいらのし通しになる。他人にも学級委員的な倫理観を押しつけ、世界を狭くする。
人生、隙間が大切なのだ。
4月初めに、肉離れをした。
筆者自身の事である。
春から秋までは、趣味で続けている陸上100メートルをやりたいので、それ向きの体に変更したい。冬はどうしても(速くはないが)ジョギングおやじ的な長距離型になる。脂肪も付く。
それをそぎ落としてスプリンターになるのは大変気持ちがいいが、変身するのは並大抵ではない。
ましてやここ2年ほど、毎週日曜日付の「スポーツ&アドベンチャー」体験コラムを連載しているので、運動不足になる。冒険と競技スポーツは、肉体の能力の発揮レベルが異なっている。競技では自分の90から95%の能力を、定められた場所と時間に思い切り発揮しようとする。冒険では65から75%を、ある程度継続的に発揮しながら、「いざという未知の危険」のために予備を取っておく。従って、スポーツからみれば慢性的な運動不足に陥るわけだ。
焦りを感じながら、夜中に井の頭公園西園のトラックでスプリントの練習を始めたら、左足ふくらはぎをギグッとやった。
それでいっそう運動不足になり、この1カ月は相当に苦労した。
昔、「肉離れは恥ずかしいけがだ」と、先輩に言われた。準備運動不足などの不注意、日常の不摂生、そして「けがをしてなんとか現実から逃げ出したい」という心理が原因だというのだ。実に非科学的だとそのときは怒ったが、自分でやってみるとよく分かる。
苦しいトレーニングからていよく逃げたいという気持ちが、奥底に確かにあった。ウオームアップ不足でもあったし、集中力も足りなかった。先輩の非科学的な直感は、(単独のけがの場合は)どうも正しい。
野球選手などで、練習中に繰り返し肉離れを起こす人がいるが、体質とはいえ、顔を見れば毎晩「ビールと焼き肉」で酒池肉林やってることが明らかな場合も少なくない。
そうでないこともあるが、そうであることも多い。
非科学的といえば、80年代初めに「女性はお産という苦しみを味わうから、苦痛に対して強い。だからマラソンも強いのだ」という馬鹿な話をするマラソン専門家がいた。
大笑いした。
今は、僕は笑わない。
「耐久的なスポーツ競技の選手を分析すると、苦痛を無視する物質が脳から分泌されているのが分かる。女性の場合、お産という強烈な苦痛に耐えるように、この対苦痛物質が特別に用意されており、それを競技で流用出来るとすれば、(体脂肪の豊富さとあいまって)極限の種目で時に男性をしのぐ結果を出すことがあっても不思議ではない」といったふうに解説しなおせば、正しいかどうかは別にしても、なるほどと思う。
事実そういう科(化)学的な仮説もある。
科学だけが正しいのではなく、「科学は直感の仮説を客観的に立証することが出来る」特徴を持つが、直感もまた正しいことがあり、非科学的だから間違っていると決めつけるのは非科学的だ。
これまでの自分の考え方を振り返ると。
非科学的な諸説の中で、結局自分が嫌いなことだけを「非科学的だ」と決めつけ、間違っていると希望してきたような気がする。
非科学的な話を受け入れる余裕もまた、大切なのかもしれない。
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、59歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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