- スポーツメニュー
-
- 後藤新弥のDAYS'メニュー
-
新弥のDAYS'
2006年7月16日更新ジダンは美談か
<過度の同情論や弁護はスポーツを汚す>
話が少しおかしな方向に動き始めている。
「事実」は何も変わらないのに、その事実がおかしな方に曲がっていく。
ジダンの頭突きの一件は単なる感情の暴発であり、何も意図して「人種差別に反対するために、自分の不利を承知であのような行動を取った」とは思えない。
人種差別でも何でも、何かをアピールしたいならほかにもっと簡単な方法があった。退場処分を受けず、W杯で優勝すれば世界を自由にできたのに。何であれ、もっと良い形でアピールできたのだ。
ジダン自身がフランスのテレビに出演して「私は後悔しない。挑発したのに、自分だけが悪者にされるのは納得できない。ただし子ども達とその指導者には申し訳ないことをした」と話した。
「暴力行為に出たのは自分が悪かった」が優先順位の上位にあることを、もう少し明確にして欲しかった気もする。ジダン本人はそのつもりなのだろうが、このインタビューからさまざまな話が生まれ、中には「実は人種差別と戦うジャンヌダルク的な行為だった」といった、行きすぎた? 美談に作り替えて、もてはやす人も出てきた。
多くのジダン・ファンもFIFA(国際サッカー連盟)も「美談」になればうれしいだろう。けれど、それは本質と違うと思う。そもそも、そんなことをする必要はないのだから。
決勝で、イタリア選手マテラッツィがジダンを口で侮辱した。FIFAは反人種差別を大会スローガンに掲げていた。アジア・アフリカ人に対する人種差別用語であるテロリストという言葉を使ったという確たる証拠は、そもそも出ていない。
ジダンは侮辱に対してかっとなって頭突きという暴力行為を犯した。FIFAの基本理念はフェアプレーである。これに反する行為だった。
イタリア選手には当然、罰則が追って発表されるだろう。
FIFAは今後、自分たちが主導してきたことが「徹底されていなかった」事実をもっと率直に認めて、さらにどう努力し、徹底させるかを真剣に考えるべきだ。暴力をふるわせないこと(及び、人種差別をさせないこと)。さらに今後は「口の暴力」に対しても何らかの処置を取る規則が必要かもしれない。
それだけのことだ。事件は起こり、試合は終わったのだ。
ところが、本来切り離されるべき人種差別と暴力行為の2つの話を変な具合に掛け合わせて「ジダンは被害者だった」をことさらに強調するような流れは、スポーツらしくない。潔く非を認め、負けを認め、「言い訳をしない」のがスポーツだ。「なぜ」をもって「何をした」の評価を変えようとしないのがフェアプレー精神だ。
最近、「若い人を叱ろうとすると、先に“事情”を説明し始め、事情があったのだから仕方がないでしょうという顔をする。それを制して本筋の話を先に戻すと、なぜこっちの話を聞いてくれないのだとむくれ始める。昔は、それなりの理由があってもまず“すみませんでした”と男らしく謝罪し、それが終わってから、聴かれれば事情も説明したものだが」といった嘆きをよく聞く。
スポーツの現場でも同じだ。「一流選手のHPなどを見て、自分も常に自分の気持ちを理解してもらうべきだという自分本位の意識が、選手や世の中全体に高まっているのかもしれない。物事の優先順位を忘れないでくれると良いのだが」との声もある。
ここでいう「若い人」には若い人なりに異論があるだろうが、おやじどもはおやじどもで、このように感じているのが現実だ。
少し別の話になるが、「本音」を言えば、ジダンはなかなかかっこよかった。
子どもの前では言えないが、我を忘れてあんな行為に出るほどの極限戦線で戦う姿は、それだけで美しいものだ。おべんちゃらに満ちたサヨナラを拒否する結果となったが、それはそれで彼らしい気がしないでもない。
悲しいほど剛く、自信に満ちた背中をスタンドに見せて1人のアルジェリア系フランス人に戻っていく姿は、ありのままで「男のドラマ」を十分に感じさせた。最後まで、孤高のジダンは孤高のジダンだった。
僕はジダンが大好きだった。「暴力」は(公には)絶対に許せない。できれば「子ども達に申し訳なかった」ではなく、子どもも大人も含めた「サッカー」に申し訳なかったと言って欲しかったが、まだ興奮さめやらぬ時点での選手の発言は、必ずしも人間性を100%ストレートに現しているとは限らないのが現実だ。
安っぽい弁護のシナリオは、ジダンのような男に似つかわしくない。
スポーツは、スポーツではなくその周辺の都合で動く(スポーツジャーナリズムというよりも)「スポーツ情報ジャーナリズム」に対して、もっと強くありたい。事情も理由も解釈も大切だが、それ以前の「スポーツマン精神」の核心部を、骨太に貫きたい。
- Thanks
- ご愛読に感謝申し上げます。すべてにご返信ができないため、整理の都合上、nikkansports.comの本欄、マスター及び筆者個人アドレスでは、コラム内容に関するご感想などのEメールは、現在すべて受付を中止しております。お詫び申し上げます。下記にご郵送ください。
また、他ページ、フォーラムなどへの転載は、引用を含めて、お断りします。ご協力に感謝いたします。
【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥
- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
【 詳細プロフィルへ >> 】