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新弥のDAYS'

2006年8月20日更新

オシム監督は救世主か

<日本サッカー自身はどう進化したいのか>

 65歳というとずい分年寄りに感じるが、筆者も60歳で、むろん中身はかなり差があるけれど(笑い)彼のイライラも分からなくはない。

 彼が考えていたよりも、日本のサッカーは02年W杯で活躍したヒディンク韓国ほどには走らないし、かといってこざかしいことをやるわけでもない。

 初めから「だいたい日本はのぼせ上がっている。プロリーグ誕生から十数年しかたっていないのに、世界の一流半に入れると思っている」と、日本のサッカー環境やその意識には相当の違和感を感じていたのだろう。

 だからあえて1980年前後まで時計を戻し「走れ走れ」を力説し、しかしそういうレッテルを貼られてステレオタイプにされると分かってからは「頭を使え」と逆のことを言い出した。

 けれど実戦を終えて、いったい今、自分が何をどうすべきかの「何」、つまり「日本のサッカーの現状」が(分かっていたつもりなのに)分からなくなったわいと、戸惑っているのではないかと、思料される。

 千葉と代表は違う。けれど千葉から見た代表と実際の代表が予想以上に食い違っている。これで「古井戸」のベテラン連中を最終的に混ぜ込んでいったら、ますます混乱する。しかしこのままでは結果は見えている。ああ、なんでこんな面倒に関わってしまったのだろう---おそらく、全部ではないがこんな感じのイライラも感じているに違いない。

 少し話しが飛躍するが、このままいくと、「もう辞めた」が<<もしかしたら>>あるかもしれない(岡田頑張れ!)。日程や代表の選出(合宿)、人選、対戦相手などに関しても、オシム監督は相当の「常識派」のようだ。つまり知ったかぶりや、いかにも事情通のふりをしない。代表なんだから当たり前だろうと、当たり前の論理を(ある時はすっとぼけて)振りかざすタイプに見える。今の日本のサッカー環境は良くも悪くも進化しすぎた部分があって「えっ、何を今さら、そんな子どもじみた話を」と、日本側は日本側で戸惑うに違いない(協会とは限らないのだが)。

 そこでぶつかる。

 「私の考えを理解させるには時間が必要。でも代表は時間が限られている」。17日付の日刊スポーツ1面で報じられたオシム監督の言葉だ。

 酷似した言葉をかつてファルカン氏が言った。結局は日本と離反した。同じとはいわないが、局面が押し詰まれば似たような形になる可能性はある。

 何より本人がイライラするのは「オシムは新しい神様」のように扱われ、彼の就任によって代表が、あるいは代表だけでなく日本全体が救われる、新しくなる、大いに進化して世界に肩を並べるようになるという過度の期待感ではないだろうか。即席カップめんのような効果を求められている点ではないか。

 むろん、すべてをオシム監督の要求通りにするのは難しい面もあるだろうが、彼を代表監督にした以上は、全力をあげてそうすべきだろうし、その前に「日本のサッカーをこれからどうするのだ」という明確なベクトルが欲しい。この4年間の「正確な、実数値の」反省や検討をした後での明示だ。それは何も協会だけの作業ではなく、代理店もマスコミもJリーグもジュニア強化担当も学校の先生もファンも、それぞれが考えるべきことで、矛盾する言い方だが、結論が出るものではないかもしれない。しかし、それをみなで模索するという意識や姿勢が、まず必要だ。

 オシム監督は、<いってみれば>これから4年間の代表担当だ。しかしサッカーはそれだけではない。オシム監督に押し付けるなとか、頼りすぎるなというだけでなく、「日本はこうだ、よく聞けオシム」と命令するぐらいのものを、本来は持っていたい。

 けれど、新代表に僕は好感を抱いている。とてもすがすがしい。セットプレーであってもとにかく勝った。いいじゃないか。前だってそうだった(笑い)。決定力不足? 前だってそうだった(笑い)。そんなにすぐには変わらない。けれど「有名人」選手が多かった前代表に比べ、新代表はコメントも正直で初々しく、いかにも一生懸命にプレーしている印象がある。アマチュアリズムというか、究極のスポーツマン精神があふれている感じがする。そしてそのコメントの中で「どこが悪かった、何が足りない」と、彼らの言葉ではっきりと、しかも具体的に話している。

 ファンが一生懸命に2時間観戦したことに対して、すくなくとも精一杯に答えている。

 その根源の姿勢こそは、オシム監督の「常識流」の賜(たまもの)だ。シュートだって、枠に飛んだものもある。どうせだめならの<アピール用>のミドルシュートはもう見られない。

 「アピールより、まず自分の任務を精一杯やり遂げたい」という姿勢にあふれている。

 オシム監督の成果がそれだけでは不満だろう、一部のサッカー人は。でも僕はうれしい。

 サッカーが原点に戻ったのだ。

 オシム監督の指揮者としての能力、戦術家としての能力を評価するのは、よくも悪くも、もう少したってからでいいのではないか。

 これだけは言える。

 「伝えて」「理解させ」「実行させる」ことができなければ、名案も名将もない。

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プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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