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新弥のDAYS'

2006年9月18日更新

太もも裂傷の人魚

<本当の強さとは一体何だろう>

 シンクロナイズドスイミングのW杯最終日の17日、テクニカルルーティン(TR)でスペインに並ばれて2位だった日本が最後のフリー(FR)で突き放し、銀メダルを獲得した。フリーコンビネーションにつぐ快挙だった。ロシアが圧勝したが、日刊スポーツ本紙が18日付で報じた通り、横浜国際プールでの地元開催にふさわしい結果を残した。

 裏を返せば、競り合った場合の結果は見えていた。ここ一番で選手が大声援をどう自分たちの力にできるか。サッカーなどではホームだと逆に重圧が懸かり、特に前半0-0や0-1だとそれが大きなマイナス要因になる。

 シンクロの日本は金子正子シンクロ委員長以下の指導陣の確かさで、浮ついた言動も大会前になかったし、勝負一筋に突き進んできたことが選手の表情からもうかがえた。

 みな苦しみ、緊張し、そこからあがいて抜け出そうとしてきたことがよく分かる顔をしていた。苦しんだ分だけ、人は強くなる。泣いた分だけ、選手はしたたかになる。こいつら、相当泣いてきたな、というのが、ひしひしと感じられた。

 だから、競ったら勝つ。

 そういう予感があった。「地元判定」を指すのではない。

 92年バルセロナ五輪の古賀を思い出す。現地入りして脚を骨折し、その瞬間に「あ、こいつが勝つ。古賀の五輪になる」と感じさせた。そういうオーラがあった。そこまでにすでに十分苦しんだことが分かっていたから。

 それを思い出した。

 演技開始直後、飛び込むときに足が滑り、リフトの主力となる原田早苗(23)が股をおかしな風に開いた。太ももに裂傷を負ったそうだ。だめか、と専門家ほどはっとしただろう。けれど同時に、このチームはこれを乗り越える、勝つためにこのトラブルが必要だったんだ、と結末を感じさせるものがあった。そういう強さのオーラがあった。

 日刊スポーツ紙面でも佐藤智徳記者が伝えている。「彼女たちもスペインに勝てるとは思っていなかったかも知れないが、最後に信念、執念、執着心が出た」と金子委員長が言った、と。それがあのアクシデントで、自分たち自身も知らなかったほどの力を出した。

 ドラマだった。

 本当の強さは、プレッシャーやけが、生活上のトラブルなどのマイナス要因が現れたときに発揮される。それによって、内側の力を振り絞ることができるか、あるいはそれを「言い訳」に負けていくか。プラスにできるか、マイナスのまま結果に送り出すか。

 イチローが「観ている側は関係ないでしょうけど、これで実はけっこう限度に近いところでやってるんですよ」と、6年連続のシーズン200安打達成時にコメントした。珍しく本音が出た。

 Wシリーズ優勝を狙うチームではない。ないならないで、自分で自分にプレッシャーをかけ、楽々と天才の技術を楽しむのではなく、あがいて苦しんで、泣きたいような気持ちに追い込みながら何かを目指す。その闘いをエンジョイする。自分にマイナス要因を与えてまで(与えることで)自分を高めようとする。自分の本当の力を出し切ろうとする。

 これも本当の強さ。

 ファンはファン、おれはおれ。その切り離し方も、なんとも潔い。

 最後の最後の場面では自分1人しかいない。ファンもコーチも親友も関係ない。自分自身の自我すら存在しない。そういう「臨界の野球」をイチローはプレーし、勝った。

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プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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