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新弥のDAYS'
2006年12月9日更新北島:失敗こそ起点
<50メートルで足を滑らせて2位、その後>
その後、金メダルを3個獲得してアジア大会を終えた。 北島康介には水泳のエースというよりも日本のエースという貫禄が出てきたように思う。
3日、ドーハでの最初の種目50メートルで、それこそ「まさか」の2着になった。
「スタートで足を滑らせて」と悔しがった話は聞いていたが、実際にどうだったかはよく分からなかった。
知人が持ち帰った写真とビデオを観る機会があった。
確かにスタート台で一方の足が滑って、明らかにここで失速していた。
世界の頂点に立つ男としては、恥ずかしいシーンだ。台が滑りやすいとか、濡れていたなどの要因はあるのだろうが、「滑って負けた」では言い訳にならない。
「負けた」ことをニュースと感じたファンも多かったようだが、問題は「滑った」ことにある。
その後、北島はスタート前にタオルで台を拭い、慎重にも慎重を期して、結局3つの金メダルをきちんと揃えてきた。
金曜日8日、NHLの番組でも「北京への手応え」を聞かれて「まだそこまで具体的には考えていない」と、今回の反省をふまえながら謙虚に話していた。世間的には08年北京の金メダルを期待したいところだが、現場から見ればそれは先の話だ。9日付けの日刊スポーツ本紙でも伝える通り、まず来年3月の世界選手権がある。
北島にとっての06年は、各所の故障が続いた厄年だったと聞く。
けれどある意味では順調かもしれない。やたら「実戦」でタイムを気にするのではなく、マラソンで言えば走り込み、いやその前の「いったん肥ってから」の段階だったかもしれない。まず基本と取り組み、基礎から身体をつくり、フォームをつくる。そういうシーズンに当たっていたのではないだろうか。長期的にはこれでもよかったかもしれない。
本人は「冗談じゃない」と笑うだろうが、五輪から五輪まで、全身全霊が張りつめていたのでは、五輪は1度しかものに出来ない。
そうした、良い意味での「実戦不足」のシーズンのスタートでのミスだった。
そのミスを素直に受け止め、反省した。このミスとそれに対する本人の反応こそ、世界選手権、北京五輪への重要な「起点」となりうる。
北島は選手としてだけでなく、人間として頼もしく、立派に成長している1人だ。
今大会は「あと一歩」での惜敗が、気のせいかけっこう多い。「アジアだから金が取れる」というこちらの側の先入観から「あと一歩で」という表現に陥りやすいことも一因だろうが、中国の北京への強化策が順調なことも裏の背景だろう。
一方で「あと一歩で、の原因は基本の軽視にある」と指摘する専門家も多い。
サッカーは北朝鮮に苦汁を飲まされた。反町監督が「反則が多すぎた」とコメントしていた。1対1での競り合いに弱い、競ったときの身体の入れ方がまずい、といったことは、W杯でも指摘されていた。反則が多いのは体力や総合力の問題点の表れでもある。見た目にはなかなか分からないが、最後の最後で大きな要素となってしばしば浮かび上がってくるポイントだ。
おなじような「基本」の部分で、日本の「まだ足りない部分」が勝敗の分かれ目となったケースが、他の競技でも多かった。
むろん、どの競技でも今回の大会を「ここ数年間の最大の目標」とすることはできなかった。しかし、それはどの国でも同じ事だ。
北島は、おそらく1個の(悔やまれる)銀メダルに、得た3個の金メダルよりも遙かに大きな価値を見いだし、心の窓に置き続けることだろう。失敗は忘れたい。対して「忘れない」ためには、大きな勇気を必要とする。けれど偉大な英雄は、そういう屈辱の中から生まれるものだ。
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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