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新弥のDAYS'

2006年12月28日更新

06年MVPは荒川静香

<スポーツに本来の価値観を投じた>

 06年スポーツ界を振り返って、いくつものドラマがあった。

 総括すれば「起きることが起きるべくして起きた」という、スポーツや今の世の中ではむしろ珍しい結果になったと思う。

 日本代表はサッカーW杯でよく健闘したが、実力以上のことはできなかった。それ以下でもなかった。頑張った。一部では「騒ぎ」を「実力」を錯覚して「惨敗」といった評価もあったが、それは間違いという物だろう。

 いかに「みんながそう言った」としても、真実は変わらない。

 デュープインパクトは強かった。

 でも世界で勝つほどには至っていなかった。 ボクシングでも、似た経緯があった。経験不足のまま強引に世界チャンピオンになるのも悪くないが、結果から見れば、「ではなぜこういうボクシングが出来るようになってから挑戦しなかったのか」という印象があった。 騒ぎ、話題、感動も大切だが、スポーツはすべて「黙ってやって、結果なんぼ」がまず優先し、厳然たる事実としてそこに存在し、すべてはそこから始まるのである。

 それを逆転することは、ムードや金の力で不可能ではない。用意かも知れない。しかし、それは最後には崩れる。

 そういう「感」を、今年は強く残した。

 日本の野球は強い。WBCにも勝った。でも米国がフル出場していなければ世界一とは言えない。一発勝負では韓国に負ける。

 そういう背景が、かしこににじみ出た。

 Qちゃんはすばらしチームを持った。でも仲間だけではマラソンは勝てない。憎み、ぶつかる大きな壁、監督がいなければ北京での活躍は難しいかもしれない。

 

 そうした基調となったのが、フィギュアスケートの荒川静香だった。

 何も言わない。ドラマ的な盛り上げを拒否する。愛想がない。ただスケートしかしない。

 そういう選手が、金メダルを獲得した。

 「実は」といった甘ったるいエピソード集の対象にすらならなかった。

 ボクは最高だと思った。

 スポーツはこうでなければならない。

 今のスポーツは、周辺がうるさすぎる、選手がしゃべりすぎる。しゃべったらその瞬間に集中が切れ、気分が楽になり、競技が楽しくなり、リラックスし、ブログに寄せられる応援メッセージに頼り始め、従って当然内に秘めている本来の能力をフルに発揮することは出来なくなる。ふつうのことしか出来なくなる。

 荒川静香の、緊張の上にも緊張を重ね、そのさなかでの真のリラックスという極限の集中をやってのけた姿に、スポーツの美をみた気がする。

 ちなみに、その後コメンテーターとしてもずば抜けた仕事をしている。

 よけいな「トーク」は一切しない。

 必要なことを、時には婉曲にも話すが、必要なときにはずばりと指摘する。

 「初めから下を向いて出てきては負ける」と、若い選手をしかったこともあった。

 すごい。

 いわゆる「女子アナ」的な「美人に見せたがろうとする」美人ではないが、だからこそとても美し物を感じさせる。

 

 こうした流れの中で、アスリート自身は何を学び取ったのか。

 サッカーの中村俊輔は、以前より余計な話をしなくなった感がある。何が足らないのか、明確につかんでいるのだろう。その上で、自分の勝負を、本当の勝負を始めた。

 オシム監督は、まさにそのことを説いた。むろん、真実はいつも苦い。必ずしも「オシムの評価」(世間的な人気のこと)が就任当時よりも上がったとは言えないだろう。

 同じ意味で、野球の松坂投手が大リーグの世界で達するには少し時間が掛かるのかもしれないが、その分、楽しみだ。

 体協やJOCとは別に、町ではオーシャンスイム(海での遠泳)や24時間レースが盛んに行われ、個々がその極限への挑戦をもっと愉しむようになり、山岳レースなども一般化し始めた。「取材しやすい」「放送しやすい」「話にしやすい」ことを前提とした一般のスポーツマスコミがまったく知らない領域で、すでに新しい潮流が大きくうねり始めている。

 来年何が起きるか、起きてほしいか、起きてほしくないか。

 NYヤンキースが(日本人が主力となるので)NYジャンキースと名前を変える話を含めて、それは次回。

 諸兄、よいお年を。

 スポーツそのものは、いつの時代も素晴らしいのだ。



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プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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