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新弥のDAYS'

2007年04月05日更新

パワーより基本練習

<全豪ライフセービング参加の遠藤監督から>

 日本のテレビでは豪州メルボルンで行われた世界選手権水泳が盛り上がったが、地元ではむしろパースで行われたライフセービングの全豪選手権が熱い注目を浴びたらしい。

 ライフセービングは、波と砂の最も烈しいスポーツで、ガードの資格(実働実績)を有する選手に限られてはいるが、そこに求められる極限的な運動能力の高さから、21世紀の競技として注目されている。

 この競技の世界選手権では高い成績を収めている日本も参加し、最強豪の豪州にチャレンジした。

 結果的には、国別の参加選手数が限られている世界選手権よりも、豪州勢がこぞって参加する今大会の方が遙かに高いレベルとなり、日本代表は大健闘を祝福されながらも数字的には成果があまり挙げられなかった。

 裏を返せばそれだけ参加の意義があったとこにもなるが、遠藤大哉代表監督は「基礎体力の充実と基礎技術の反復練習が課題。科学的なトレーニングも必要だが、つらく単調な基本練習を逃げる口実にしてはならないことがはっきり分かった」と、本欄にレポートを寄せてくれた。

 以下、その全文。

 他競技にも通じる、貴重な体験報告だ。

<遠藤監督の報告メモ>

 世界大会ではそこそこ戦えても全豪選手権では歯が立たない。改めてオーストラリアのライフセービング競技のレベルの高さを思い知らされた。

 今年はSLSA(サーフ・ライフ・セービング・オーストラリア協会)設立100周年を迎えた記念すべき全豪選手権大会となり、オーストラリア全土からおよそ5000人のライフセーバーが参加した。

 西の外れパースで行われたため通常より参加者が減ったそうだが、それでもその規模の大きさには驚かされた。カテゴリーも15歳以下から60歳以上と、まさに生涯スポーツとして定着している。もともとレスキューの能力を高めるために始まったスポーツだが、今では国民的スポーツとして広く楽しまれている。楽しみながらも、心の奥底にライフセーバーとしての誇りと情熱が輝き、それが彼らの笑顔をよりさわやかにしている。

 この大会に、今回日本から強化チームを2チーム派遣した。

 結果は男子ビーチフラッグスで植木将人(28)が銅メダルを獲得したのをはじめ、ビーチフラッグスとサーフレース(約400メートルスイム)では決勝に残るまで健闘したが、後の種目はよくて準決勝、予選敗退がほとんどだった。

 オージー達との差は何なのか。体格のせいにしたくはないが、正直この体格差も否定できない。結果を見ても体格差に左右されないビーチフラッグスやサーフレースでは何とか互角に競えるが、90メートルビーチスプリント走やカヤック・ボードを使うクラフト種目では歴然の差が生じてしまう。実際にはビーチフラッグスやサーフレースでも接触すれば当たり負けしてすぐにはじかれてしまう。

 体格差を別にして日本人に何が足りないかいろんなコーチに聞いてみた。聞けば聞くほど皆同じようなことを口にした。それは有酸素能力を含めた基礎体力だ。日本から見ると一番の違いはパワーだと思われたのだが、持久力とのバランスの取れたパワーでなければスピードをつけるためのハードなトレーニングもできないと言われた。

 むろん、現在の世界のトレーニングの方向は「力」だけでなく「筋肉のスピード」を追求する方向に振られていて、単なる米国の「大リーグ式トレーニング」では、一歩進んだ欧州の概念に追いつけなくなっている。

 けれどそれが最大の課題ではない。

 確かにライフセービングの競技は3~5分が運動時間でこの間ハイレベルのスピードを維持しなければならない。サーフスキーの選手はパワーも要しウェイトトレーニングが重要だが、それ以外はほとんど補強的なことはやっても筋肉を大きくするようなウェイトトレーニングはやらないと言う。

 同時に技術についても基本の重要性を指摘された。特にサーフ種目では波とのネゴシエーション、つまり波を処理する技術が重要となる。このスキルを身につけるには長い時間をかけて基礎練習を何度も何度も継続的に繰り返し行う以外に方法はない。どんなに難しい技術も基礎がなければ応用はない。

 極論すれば、ただ単調な基礎練習の反復こそが、実は日本にいちばん欠けていることなのかも知れない。それは、意外に他の多くの競技にも当てはまることではないだろうか。

 自分も含め多くの日本人指導者は海外に何か最新情報を求めてしまう傾向がある。しかし特効薬はどこにもない。今回の大会で基礎の大切さを確信した。

 今大会マスターズ60歳以上のカテゴリーでアイアンマンレース2位となったカウツ・アラン氏は、15年前に僕が初めてオーストラリアに渡った時のアイアンマン種目のコーチだった。15年ぶりの再会に興奮した。

 代表強化も大事だが、実は子どもからマスターズまでみんながこのスポーツを楽しめるようなバックグラウンドこそが大切だと感じた。

 何についても、やはり基礎とか土台が大切で、目先だけの強化には限界があることを痛感した。



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プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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