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新弥のDAYS'
2007年04月29日更新高校スポーツの危機を好機に
<比佐仁(ひさ・じん)さんのメール>
高野連やプロ野球が「裏金の供与問題」や「特待生制度問題」で揺れています。けれどこれは野球に限ったことだけではなく、日本の高校や大学のスポーツの構造的な課題が、ようやく大きな割れ目に直面した、元をただせば初めから存在した危機なのです。この問題を、小さな領域にあえて限定して“すみやかに対処”するのではなく、もっと大きな視点から捉えて、根本的な是正に取り組むチャンスとするべきではないでしょうか。
以上のようなメールを、スポーツの科学トレーニングの発展と普及に尽力してきた比佐仁さん(スポーツプログラムス主宰)から頂いた。
同氏はデザイナーでもあったが、アメリカンフットボール誌の編集長を経て「なぜ日本は米国に追いつけないのか」という疑問を捨て去ることが出来ず、米国で最新のスポーツ科学を視察・研究した。ストレッチングの概念を日本に初めて導入したのも、米国五輪科学委員会のコンピューター動作解析システムや、大リーグ及びNFLの実践的なトレーニングコーチ法を紹介・導入したのも同氏だった。
そうしたノウハウをプロ野球や社会人野球などに惜しみなく投入、トレーニングコーチを法の指導にも尽力してきた人だ。
日米のスポーツ事情、特に科学トレーニングに最も通じている人だ。それだけに日本のスポーツの概念やトレーニング法の遅れや、「科学トレーニング」と呼ばれている非科学的トレーニングの誤解などにかねて憂慮しておられた。
今回の一連の「不祥事」は、そうした日本の構造的なスポーツの課題であり、誤解や勘違いのうんちくであり、今こそ文部科学省自身が真摯にこの問題に取り組んで、抜本的な是正を図るべきチャンス(好機)だと述べている。
筆者も、同感だ。
ここの「各論」ではそれぞれに異論もあるに違いないが、「好きなだけ好きなことをやればいい」のがスポーツなのか、「ハンディはあるが、それでも一生懸命に」取り組むのがスポーツなのか。選手のために、子らのためにという想いが、あまりにも強くなりすぎてしまい、おかしな言い方だが環境がよくなりすぎてしまった日本のスポーツ界が、「スポーツとは何か」を今一度考え直すチャンスにもなると思う。
少なくとも、米国では少年少女に「やりたいだけ好きなこと(スポーツ)をやらせる」ようなことはしていない。
それを知らない人も、実際には多いのではないだろうか。
知っておくべきことの1つだ。
以下、同氏のメール全文をご紹介させていただく。
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そもそも後藤さん、特待生制度問題のニュースに接してが「えっと、あれは悪いことなの?」と思う人が多いのが実状ではないでしょうか。
日本中の私学高校にこの制度があると思います。なのに、高野連の調査では数十校しかやっていないという事になっています。
これは裏を返せば、野球だけが特待生制度を実施しているのがこの数十校で、残りはスポーツ全般で野球に特化していないという事なのでしょう。バレーやバスケットやテニスや卓球はいいけど、野球はダメという事なのでしょうか?
これは野球に限らず、高校スポーツ全体の問題です。
特待生の話をすれば、これは能力のあるものには援助しましょう。才能を開花させる手伝いをしましょうという精神がこのような制度を支えています。
と共にスポーツが宣伝効果として大変に有効な手段だからというのもこの制度を支える大きな理由でもあります。
この問題を考える時、高野連という1つの団体の理屈で問題は解決出来ないと思います。
東北の私学校には大阪から大挙して野球少年が越境入学しています。私学だからこれも違反ではありませんが、いきなり強豪チームが出現するのですから地元にとっては何とも釈然としない試合が増えます。
高野連も教育を強調するならこの問題も解決しなくてはなりませんが、私学経営の手段として高校野球が使われるならルールを違反しているわけではありませんので、許されてきたのでしょう。
昔から、越境しなくとも地元の私学には野球特待生が存在していました。もちろん他の競技についても同じ環境です。
けれど筆者が不思議と思うのは午後から授業を受けなくて良いとか、遠征や試合で授業日数が不足しても卒業していく事に誰も疑問を感じない、いい成績を出せば基本的なルールでも無視できる事を多くの生徒に理解させてしまう事の方に、文科省がクレームをつけないことです。
スポーツ以前、教育とは何かについて、今の日本の「現状優先」主義には強い疑問を感じます。
いや、少し前までは、日本でもこうした現状に対して「スポーツだけでいいのか」という疑問を発する人が少なくありませんでしたが、現在は「それで当然。才能をどんどん伸ばすことが教育だ」という考え方がメジャーになっています。昔はそういう特別扱いを「卑怯だ」などとまで批判し、正々堂々、「受験や家の事情があっても、それでもそれを乗り越えて」いく姿勢こそスポーツの根元精神だと主張する人も少なくありませんでした。
そういう時代にはき違えた根性主義も生まれましたが、その奥にあったスポーツの精神は、今では懐かしい思い出になりつつあります。残念です。
けれどアメリカでは、その根本を真摯に護ろうとしています。
氷山の一角、たとえば、の話ですが、すでにご存じでしょうが、週5日一回2時間以上のコーチが付く練習は許されていません。6日目は試合日、7日目は休養日です。つまり2時間×5日の週10時間以上の練習は一律に禁止されているのです。
これを破るコーチはコーチの資格を剥奪されますし、これを破る学校は体外試合が禁止されます。つまり高校生、大学生は練習のし過ぎで学業がおろそかにならない事、全国同じ条件のなかで競う事が条件で高校、大学のスポーツが運営されています。
これなら努力の工夫の差が競い合いになります。高野連も文科省もこれ位公平なスポーツの土壌を作るべきです。
そうした制度の中で、初めて「科学的トレーニング」の必要性も生まれてくるのです。
高校生でピークを迎え、スター扱いをされ、勘違いをしたアスリートが増えないためにも米国式のトレーニング方法の導入ーー私の専門分野ではありますがーーをする前に、まずこの制度とその精神、スポーツとは何か、という概念を見習って欲しいと思うのです。
今回のこの騒動は、格好のチャンスです。利用するといいと思います。
スポーツがビジネスになるのはトッププロの世界であって、高校野球で日本一になろうが、体力的にも技術的にもまだまだ未熟な発展途上の選手達の行う試合です。感動を与えるのは特待生の集団ではありません。極く普通の高校生が「それでも僕はやる」「私はやる」とさまざまな障害に勇気を持って当たっていく姿こそ、観る者の心を揺さぶるのではないでしょうか。また、1人の人間がスポーツの取り組むだけの価値を照明するものではにないでしょうか。
そのような「努力すれば夢が叶う」制度にする事が、そのように改革整備することが、日本にとっての先決課題だとは思いませんか?
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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