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新弥のDAYS'
2007年07月25日更新心臓に悪い?戦線離脱
<年寄りの気持ちは年寄りにしか>
アジア杯でオシム監督がPK戦を見ずに控え室に閉じこもっていた話は、その後、結構話題になっているらしい。
サッカーファンはこの監督の性癖をよく知っているから、あえて話題にしないことをよしとしている節もあるが、まだまだ「サッカー=茶の間の常識」ではない。
へええ、心臓が悪いのか、ジンクスがあるのかと、あらためて感心したり、心配したり。「じゃあW杯の決勝になっても見ないのか」などという人までいて(そんな心配は必要がないだろうが)、なかなか町の反応には興味深い物があった。
「日本的な感覚では、指揮官として落第だよ」という真面目な若人もいる。
一方の年配者はけっこう厳しい目で日本代表を見るから、PK戦で勝った、ドラマだったとは手放しで喜ばない人も多い。
「なぜ1対1で終わったのか。そもそも、なぜ先制を許したのか。なぜあと1点の適確な指揮ができなかったのか」「PK戦はロシアンルーレットではない、疲れていた方がたいがい負ける。11対10になった時点でPK戦の勝利はだいたい予測できたが、それならなぜ体力差を利して延長で押し込まなかったのか」。
GKの華麗な技を褒める前に、言いたいことを言うのが、いわば横町のご隠居さんである。
日本はまだ代表の形成段階。交替もできなければ強引にこじ開ける技量も未開発。先制された直後に勇気を出して反撃した「同点弾」を褒めるべきだ、などという理屈は横町では通らないらしい(笑い)。
横町と、サッカーファンの座標軸には、いつの世もブレがあるものだ。
もっとも、口の辛い年配者も「PKは心臓に悪いから見ない」というオシム監督の発言には、本当に心臓が悪いかどうかは別にして、多分に同情的だ。
見ても見なくても、PK戦は選手個々しか戦えない。
「負けた時に飛び出していって、選手を叱るなり慰めるなりすれば、あとはどうでもいいじゃないか」という老人がいた。負けた時だけ、という発想がいかにも古ダヌキだが、血圧があがる、不整脈が出る。加齢なる日常には、独特の味や悩みがある物だ。
確かに、そのへんは若い人には理解しにくいものがあるかもしれない。
まさに蛇足だが、筆者も先日、唯一の趣味といっていい陸上100mの大会に行って、生涯初の予選落ちを喫した。
中学の時に陸上部だったが、予選以前、校内の代表にもなれなかった。45歳ぐらいから陸上を始めたが、今61歳になってみると「50歳以上」というクラス分けにはもう抵抗の余地がない。練習したくても疲労の抜けが遅いので無理できなくなる、筋肉を創りにくい体になってきているので肉離れの再生が長引くと、愚痴ばかりである。
全力を尽くしても尽くさなくても、予選落ちが楽しいはずがない。
本当は同タイムがいて、くじ引き、いわばPK戦で負けて決勝進出がならなかったのだが(笑い)だからといって、実際にスポーツする側には何の慰めにもならない。いくばくかの練習、準備の時間や手間、つらさを思い起こせば、面白くないことしきりである。
けれど、そうした不愉快とおとなしく同居していくのが隠居の心得である。自力でここから脱出することはもうできないのだから。
オシム監督も、PK戦を見ないなどというのはずいぶんと屈辱なのだろう。本来なら、「あいつは気が弱いからPK戦を見ることができないらしい」などと人に噂されることの方が、よほど心臓に悪いはずだ。
そんな噂が耳に入ったら、いく晩も眠れないだろう。
それでも、その恥をさらしてもマイペースで「己の仕事」に食らいついている。
ふふむ、「苦しいところをがんばっとるな」と、年寄り世代は年寄りなりに、オシム監督をながめるのである。
そして、元気な世代が自分をまだ追い落とせないでいることに、内心ほくそ笑んでいることだろう。
したたかである。
が、同時にこの人は高い給料をもらっているのだ。
タクシーを使い慣れた身が、今はバスを待っているのだ。退職金は予想を下回り、年金は「昔のずさんなやり方」のおかげで先行き不透明になっているのだ。ある横町のご隠居がぼそっと言っていた。「わしらから見れば、オシム監督は、もう少し不安な立場に追い込んでもいいがなあ。頼まれ仕事(ボランティア)じゃあないんだからねえ。今の若い人は、テレビに出てるスポーツの有名人には、感動こそすれ絶対文句を言わないからね」。
横町では、選手の健闘やオシム監督の心情を理解しながらも、1対1の勝利を「快挙」とまでは見ていないらしい。横町のご隠居やお婆さんは、けっこうクールなのである。
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、61歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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