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新弥のDAYS'
2007年08月30日更新競技者の原点に戻ろう
<世界陸上、予選落ちが連続したが>
200メートル2次予選のスタート前、ほかの選手がみな真っすぐ前をにらみ、跳びはねたり足踏みをしたりして「さあ、行くのだ」と自分に言い聞かせている中で、末続選手だけは頭を右に傾け、体そのものも傾けて、目は輝きを失っていた。
陸上競技に詳しくない人でも、結果は初めから察知できただろう。
自信があるから、自分だけ悠然としていたのではない。自分でも駄目だと分かっていたから集中できなかったに違いない。
後で、背筋や脚がつったと知る。
残念なことだ。
ほかのすべてのスポーツと同じように、陸上短距離は仕上げがデリケートで、いかに万全の準備をもってしてもその日の体調や、ちょっとした痛みでパフォーマンス(外に現れる結果)は大きく異なってしまう。それ以上に、五輪を翌年に控えたシーズンはどこまでピークを高め、どんな試合をしておけばいいのか、レベルが上がるほど各選手には難しい問題になってくる。
だから、北京でメダルを狙うような選手たちは、必ずしも今回の大阪陸上に「本当のピーク」を設定しているとは限らない。たとえ日本選手が「結果から見て」不振のようでも、だから日本が駄目だとか、弱いとか、十把一絡げにして論評するのは、適切ではないだろう。選手にも、競技そのものにも失礼だと思う。それぞれの敗因は、それぞれであって、「論評のために」無理にまとめて共通のマイナス点を捜すことはしたくない。
一般には「それ見たことか、あんなにテレビや広告にでまくって」といった、厳しい見方もある。
選手個々にとっては不本意なことかもしれない。一生懸命努力して注目選手の1人になったのだ。世界陸上を盛り上げ、世間の熱い応援を得るために、陸上をメジャーにするためにと請われてマスコミに対応し、自分としてはむろん金儲けなどという発想もなく、ただベストを尽くしてきたのに、好きなように持ち上げておいて、もうこれだ。コーチやマネジャーのアドバイス通りにしてきたのにと、内側では、そういう怒りもあるだろう。
ある意味では両方正しいし、両方とも少し間違っている。
まず予選落ちしたことは何も悪いことではないのに、「期待を裏切った」ことを周囲が責めるのはおかしい。期待したのは周囲であり、事前に実力を評価し、結果を高く予想したのも周囲である。本人は「**を狙う」という気持ちを表明しただけで、選挙の公約ではあるまいし、優勝するとか世界新を出すなどと宣言したわけではない。
出場選手の大半がベストを尽くしている中で、ちょっとしたことで置いて行かれる失敗はよくあることだ。
では選手の側に問題はなかっただろうか。
反省はあるはずだ。
それを糧に、次へ踏み出して欲しい。
余計なことを言うようだが、惨敗の後は虚勢を張らず、素直に自分自身がそれを認めて、一から出直す潔さが欲しい。人にそれを言う必要はないが、自分の中で「自分は競技者であり、それ以上でも以下でもない」ことをはっきりと再認識する。その起点、原点に一度戻って、勇気を出して「競技者の自分」を再構築することだ。
テレビ番組やCMに出る必要もあるだろうが、何もタレントのまねをする必要も、有名人として、あるいはカリスマとして出る必要はない。1人の、ある意味では競技に恐れを抱く、謙虚な競技者として出ればいい。もっと笑ってといわれても、競技者としての自分が笑わないなら笑わなければいい。
スターになる必要はない。あくまで競技者として生きればよい。イベントに招かれても、スターではなく競技者として謙虚に振る舞えばよい。ゴミを散らかさず、誰に対しても同等に丁寧に、誰に対しても感謝の念を忘れない、競技者の原点に戻ればいい。
そうした「生活の基盤」から再構築していけば、敗戦の苦痛からの立ち直りは早い。勇気が新しい勇気を呼び出して、いつの間にか次への助走路を走り始めた自分に気がつくはずだ。食事や睡眠を含めた日常の細かなことや心構えから、競技者の原点を見つめ直すこと。どんな筋トレやメンタルケアより、それがいいと僕は思う。
何も世界陸上だけでなく、あらゆるスポーツの選手にとっても、言えることだろう。
そういう部分に関して厳しく、また親切に教える指導者が減っているのは、残念でもある。指導者に対してははっきりと「マスコミ対策などどうでもよい、実力を伸ばしてやれ」と強くお願いしたい。
競技は、体力や技術、精神力だけでは勝てない。真の競技者でなければ真のベストを出し切ることは難しい。
できることならば、テレビ中継でも、そういった側面に関しても触れて欲しい。
単に結果がどうだった、で終わって欲しくない気持ちでいっぱいだ。せっかくの世界選手権なのだから。
まだ棒高跳びなど後半戦が残っている。
沢野選手らに大きな期待がのしかかっていく。それに負けず、自分を見失わず、内側のベストを出しきって欲しいと思う。
スターではなく、あくまで競技者として勝ち、負けて欲しい。
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、61歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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