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新弥のDAYS'
2007年09月08日更新世界陸上の無念
<テレビのショーがすべてではない>
大阪の世界陸上が終わって1週間が経過した。
思えばしっかりと「今、できること」をその範囲でしっかりとやってのけた室伏はやっぱりすごかった。
ほかの選手が浮き足立ったように実力を発揮できないままに去っていった中で、土性骨というか、陸上競技者のご根性を見せつけてくれた。
だから北京で連続金メダルとはいかないかもしれないが、おごることなく、おじけることなく、あくまで「室伏」として競技してくれることだろう。
敗退の中にも感じるドラマはあった。
筆者も期待した沢野は、手が滑ってやけどし、なんとか飛ぼうとはしたが、結局そのままぼう然と競技を見送った。
「負けた」「失敗した」ことにテレビ中継は焦点を合わせていたが、見ている側は「1年365日、このために我慢し、苦労し、熱い汗を流してきた1人の人間にとって、こういうハプニングはどんなに悲しいことだろう、悔しいことだろう」と、やりきれない思いに駆られたに違いない。同情を超えた痛みを感じたに違いない。
実は、その胸打つ悲しさや悔しさこそが、陸上競技そのものなのだ。
勝った負けた、草原の王者だ、バイキングだと騒ぐのも一興ではあるが、陸上競技とはただ目の前の勝負ではなく、そこに至る歳月の努力を(見えなくとも)見る競技であり、練習と試合が(どちらかといえば)分離している野球やサッカーとの相違点である。
つまり、本番でのパフォーマンスだけについ目がいくが、そこで現れるものは365日の汗の積み重ねそのもの(延長)で、練習と本番の境目は存在しないのだ。歌手やお笑いとも、その点が異なる。
裏を返せば、そこを感じることができないと、ただの筋肉合戦にしかならず、「新種のバラエティー」の価値しかなくなってしまう。
むろん、中継するテレビ局には「スポーツファンだけではない幅広い視聴者」に向けての番組製作が要求されるのだから、筆者のいうような視点だけでは、プロの仕事にならないだろう。
だから中継される番組が、実際の世界陸上の全てとは限らない。当然のことだ。
その間隙(かんげき)や差分を、ファン個人がどうやって埋めることができるか。
政治や経済にたとえれば、社会の側がいかに真実を見抜いて自分たち自身の価値基準を大切にするかが逆に問われているのが、現代だ。
陸上競技は、365日の生活をぶつけ合う競技なのだ。
率直に言って、日本の成績はあまりよくなかった。北京五輪に向けて、だけを考えればこれでいいのだが、地元開催というめったにないチャンスを十分生かせなかったことには、反省の余地がある。女子マラソンも、過去2回の五輪と、地元という利点を考えれば、土佐の3位を「大変な快挙」とは呼べない。彼女自身は立派だが。
考慮点の1つとして、サプリ(栄養補助食品)やスポーツドリンクへの依存度をあげたい。練習時点からあまりこれに頼りすぎると、練習時点からピークパフォーマンスのレベルに上がり、体力を消耗しすぎて、本番ではそれ以上どころか、疲労から普段以下の結果しか出せないことがある。また、重圧や疲労から、すでに極限状態に達していた筋肉が本番でその限界点を超え、けいれんやけがを招くことも考えられるーーのではないか。
これはあくまで筆者個人の経験からの視点で、どこの大学の先生やメーカーが発表した仮説ではないし、「科学的なデータ」とやらを揃えて補強したものだえもない。でも、多分選手個々には思い当たることがきっとあるはずだ。
もう1つは、すでに述べたように「競技者としての生活」だ。
本来は、マラソンなどを除けばプロとして成り立つスポーツではなかった。今は周囲の理解と協力で、プロもどきの扱いを受けることもあるが、それにだまされず、選手個々には「好きなことを思い切りやれる」幸福と恩恵を身に染みて感じながら、もだえ、苦しみ、酸欠でゲロはきながら、競技者として頑張って欲しいと思う。
陸上界にカリスマなどいない。海外でも、本当のスーパースターなどいない。極端な言い方かも知れないが、ロスの町でゲイの名前を出して、いったい何人が目下の最速スプリンターだと認識するだろう。それぞれの町や村でもおばあさんや子どもに試してみるといい。
いるのは「あと0・01秒速くなりたい」「あと1センチ遠くに投げたい」と、そればかり考えてノイローゼになりかかっている、真摯な競技者だけだ。
だからこそ、陸上競技は愛される。存在するだけの価値がある。挑戦するだけの価値がある。ショーではないから、価値があるのだ。
と、私は思う。
審判の心得として、場内アナウンスするときは「抜かれた」とか「*位に落ちた」などといった、競技者を傷つけるような表現をしないこと、とされている。陸上競技とは、そういう精神を大切にするスポーツなのだ。
できればマスコミとして、その原点を、もっとアピールしていきたい。
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、61歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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