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新弥のDAYS'

2007年10月8日更新

浜口京子の不屈

<誤審判定の不運もレスリングのうち>

 

世界選手権の女子レスリング72キロ級で、浜口京子(以下敬称略)が2回戦敗退したニュースは、日本のファンには耐えられない屈辱だった。

 

明らかに浜口のポイントだったが、審判は全く逆の結果を出した。ブルガリアのズラテバの勝利となった。

 

そんなばかなことがあるかと、父でありコーチであるアニマル浜口氏は怒りまくった。

 

けれど浜口本人は、日刊スポーツ本紙でもすでに報じたように「これは北京五輪へ向けての試練。くじけている暇はない」と、11月の国際合宿でズラテバとスパーリングすることを楽しみにしているそうだ。

 

不屈。

 

誤審がなければ2回戦を勝っていたか、という議論はあまり意味がない。1Pを落とした後の2Pのできごとだった。また前回の決勝も同じ相手に頭突きを受けて鼻を骨折した。それも不運といえば不運だったが、格闘技には格闘技なりの決着がある。

 

ズラテバが苦手な相手であり、今回も「完勝」できなかったがために自ら招いた不運パート2だったともいえる。

 

ファンからみれば「とんでもない話」なのだが、もう1つ大きな視野からは「そういうこともあり」の結果ではなかっただろうか。

 

酷なようだが浜口には「相手をたたきのめして、文句なしに勝つ」必要がある。

 

それに向かって、本人は歩き始めたようだ。すばらしいことだ。

 

優勝して欲しかったが、もしかしたらそれ以上の物を獲得したことになるかもしれない。

 

また、後でそう感じることができるように、彼女は頑張るのだ。

 

応援しよう。

 

スポーツは、試合が終わったらそこまでで、結果を覆すことはできない。その大前提を受け入れてこそ、真の競技者だ。

 

世の中も同じで、社会(会社)で苦労している人は分かるだろうが、理不尽なことだらけだ。人生において何が勝利で敗北なのかは人それぞれが決めることだが、正しい者が勝つとか、努力は必ず報われるとか、実力さえあれば成功するだの、出世するだのといった法則はどこにもない。誰もそんなことを保証していない。

 

(そういう不合理を、今の教育は教えていない。皮肉にも、昔は「道徳教育」という方法で、逆説的に「理屈に合わないこともある」「その時どうするか」という現実の側面を教えていたように思う)

 

その不整合の世の中で、それでも正しいと思うことを信じて努力するか、うまいことやった方が得だと感じるか。多分、人間の真価はそこで決まるのだが、だからといって何の褒美(ほうび)が出るわけでもない。

 

人や世間からは何ももらえなくても構わない、というのが競技者のスタイルだ。競技者的な生き方をする人を僕は尊敬するが、自分ではなかなかできない。

 

できないからこそ、浜口のような「真実への挑戦者」に夢を託すのである。凡人にはとても参加できない「内側の五輪」の勝利を、祈るのである。

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プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、61歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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