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新弥のDAYS'

2007年10月13日更新

挑戦者を攻めた内藤

<月収8万円の33歳が見せた男の誇り>

 10日の世界戦をテレビで見た。

 亀田ファンには残念な試合だったが、多くのボクシングファンが感動したに違いない。WBC世界フライ級王者の内藤大助が、亀田大毅を3-0の判定でくだし、防衛記録としては日本人過去最年長の33歳1カ月で初防衛に成功した(本文敬称略)。

 亀田は一発をねらうかのように身をかがめ、つきすぎるほどついた筋肉のスタミナを温存するかのように、自分から打ち出さなかった。

 一方のチャンピオンは惜しみなく全力で戦い、自ら打って出た。

 打って出たが、それは実に緻密なボクシングだった。亀田のキャリアからはその城壁に穴をあけたり、崩れを見つけ出すことはとうてい不可能だった。

 慎重に準備し、自分を作り上げた、熟練のボクサーがそこにいた。

 大きくは見えなかったが、不屈で、堂々として、何よりも潔かった。

 内藤は北海道の出身で、ずいぶんといじめにあったという。「なにくそ」からボクシングを始めた。動機としては今風ではなく、昔風だった。強くなって見返してやるのだ。それがいいとか悪いではない。内藤は、そう決めたら、そうした。途中で投げ出さなかった。

 ただけんかに勝ちたいからボクシングを、という若者は多いが、それだけでは頓挫するものだ。大金をつかみたいから、だけでも頓挫する。

 内藤自身、ファイトマネーの貯金以外では先月までは夫人と併せて月収12万円だったと、12日付けの日刊スポーツ本紙も伝えている。今は8万円だ、と。

 自分で決めた道だから歩いていくのだというよほど強い意志がなければ、ボクシングは続けられない。内藤にはそれがあった。昨年ようやく世界王者になったが、世間的なスターではなかった。世界陸上に出て予選落ちする陸上選手より、世間的にはもっと無名だった。

 けれど、そうしたコツコツ、コツコツと努力を続けていく内藤の姿に、真のボクシングファンは胸を打たれ、心の中で声援を送り続けるようになった。

 今回の試合とは関係なく、内藤の生き方に感動するファンが、目立たないがたくさんいたはずだ。

 そうしたファンにとって、今回の試合の結果によるにわかファンではなく、ずっと内藤を見てきた真のボクシングファンにとって、この勝利は、涙を流したくなるほどの喜びだったろう。

 内藤の魅力は、ベテランでありながらも逃げの姿勢や、省エネっぽい戦い方を拒否し、自ら若者に戦いを挑み、待ち受けるのではなく攻めてでる姿勢になるのだろう。

団塊の世代、などと呼ばれて「自分は年寄りだ」と考えてしまう人生のベテランも最近は少なくない。着るものも渋めに、歩き方までのろのろと、何となく「年をとった」イメージを自らに与え、それに従ってしまう人も多い。でも、内藤をみろ。

 ボクシング界では相当の「年配者」にもかかわらず、そういうふりや、逃げ方を絶対にしていない。年に負けていない。

 多くの世代のシニアが、この試合の内藤に格別な感動を味わったに違いない。

 <ついでのことだが> 終盤荒れた試合だったが、レフェリーが亀田を「失格負け」にしなかったのは正解だと思う。抱え投げたから負けたのではなく、ボクシングで負けたのだ。

 裏を返せば、内藤は亀田が反則したから勝ったのではない。堂々と、試合に勝ったのだ。

 <さらについでだが> 亀田のような派手なリング外の言動に眉をひそめる向きも多い。ただ、もし相手が亀田でなかったら、内藤の魅力がここまで世の中全体にアピールされることもなかったかもしれない。「亀田のような存在が、ボクシング界にある意味では活を入れたのだ」という言い方は、長い局面からは正しいかもしれない。

 でも、反則はよくないよね。

<亀田の側からみれば> やっぱり勝たなきゃ。もっとボクシングそのもので強くならなきゃ。でも、まだ18歳。これから、何でもできる。何にでもなれる。

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プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、61歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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