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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」
2007年1月23日更新逆風に負けず!!大役先導、オヤジ感動
日本最大規模「谷川真理ハーフマラソン」女子選手引き連れ、荒川土手を愛車で疾走
初めはうそだろうと思った。ハーフでは日本最大規模の「第8回キタ(谷川真理)ハーフマラソン」(1月14日、東京・荒川河川敷)の自転車先導を引き受けないかと、MTBのプロライダー山口孝徳さん(32)から連絡がきた。光栄だ。公式イベントでは未体験だが出世のチャンス、メジャーデビューを見送る手はない。条件を1つだけ付けた。「女子の方をやらせてくれよな」。女子の方が大変だとは知らなかった。
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| ゴール直前の晴れ姿。大きく旗を振って先導した(亀田正人撮影) | |
18キロのマークを過ぎた。復路コースは2段構えの急坂を斜めに上り、土手の上に出る。この坂が怖かった。距離で50メートル足らず、一気にいけば何でもないのだが、すでに緊張の1時間。おやじのふくらはぎは寒風に冷やされて乳酸で固まりつつある。選手に抜かれたらどうしよう。
身の程知らずの大役を引き受けたはいいが「先導車、5位に落ちる」なんてことになったら大ごとだ。事件が起きるたびに「過去の珍事アラカルト」で新聞に載せられたらたまらない。
ギアを入れ替える勇気もなく、そのまま強引に立ちこぎした。正月の竹馬乗りで痛めた右腰がぎしぎしときしむ。でも失敗だらけのこの人生、これ以上は恥はかけない。無我夢中だ。
土手の上に出てほっとした途端、源流群馬・水上から吹き付ける強風と出合い頭の正面衝突。ぶわっと押されてよろめいた。恨みでもあるのかコニョヤロー。
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| 午前10時、新荒川大橋下を先導スタート | |
ところが先頭の選手が風を恐れない。3人の集団から上り坂で一気に抜けだし、逆風に突っ込むようにピッチを上げた。おやじとの差をぐっと詰めてくる。危ない危ない。それにしても勇敢だ。強い走りだ。
感じ入ってこちらの体が反応し始める。タンタン、タッタッという足音に、クランクの回転がぴたり合ってくる。無意識に後退し、選手の前で風よけになった。リズムに吸い込まれ、一体になってゴールを目指そうと、し始めた。
いかんいかん、これでは選手が失格になる、先導は伴走ではない! はっとして差を広げた。新岩淵水門を横切るとゴールは間近。選手の息が荒くなるが、それでもまだ加速している。振り返って確認すると新鋭早川英里さん(25=アミノバイタルAC)だった。とんでもない根性娘だ。
旗を取り出して、大きく振りながら走った。「先頭、来まーす」。10分遅れでスタートした男子の先頭佐伯力君が反対の西コースから飛び込んできた。歓声がわいた。先着を争っている。ゲート前で右に逃げた。無事に任務を終えたのだ。 感動が血管の中で踊りまくっている。
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| 谷川さんに礼を言われて感激した。左は男子担当MTBのプロの山口さん | |
毎年この大会の自転車先導を務めているMTBレースのベテラン、山口さんから「今回から男女のコースを東西に分けることになったのでもう1人要る」と連絡が来た。同氏が率いる「チーム・スバル=エンドレス=プロライド」のクラブ員なのでボスの誘いは断れないし、やればチームジャージーをくれるという。
伴走の経験はあるから要領は分かる。ところが希望した女子は北区の新荒川大橋下から土手沿いを東へ往復する新コースで、復路が逆風。しかもサイクリングや散歩の人が多数いた。
ある時はダッシュで先行し「マラソンやってます、よろしく」と頭を下げてコースを譲ってもらう。ある時は選手の近くに戻ってじゃれつく犬をラッパで追い払う。早川さんが21・0975キロを1時間16分28秒。理屈では平均時速約16・5キロで楽なペースだが、現実はダッシュの繰り返し。神経もすり減った。
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| 早川英里さん | |
でも泣き言をいう気はしなかった。武蔵野高をはじめ都内の中学、高校生約200人がチップ回収や給水、距離表示などの補助係員として働いていた。アトランタ五輪銅、シドニー五輪銀のワイナイナ(33=ケニア)ら1万人が参加の国際レースに成長したが、創設時の「手作り」精神が今も脈打っている。
下町らしい大会だ。
優勝の早川さんも町が育てたランナーだ。長距離は谷川真理さん(44)主宰の「ハイテクスポーツ塾」(神田)へ通い始めてから。02年のホノルルで4位、翌年には日本人で初優勝。
「今日は、スパートは1回だけだと思ってあの上り坂で一気にいきました」。中島進コーチは「高い集中力が魅力だが、逆境に強い雑草の強さを持っている」。月末の米アルバカーキ合宿を経て3月の名古屋国際に出る。おやじの先導が新エースを世界選手権に送り込む可能性もある。おい、えらいことになるぞ!
表彰式。谷川さんがこうスピーチした。「悪条件を嫌がらず、来るなら来い、何が起きても挑戦を楽しんでやるという精神で走りましょう。だって、世の中も逆風だらけじゃないですか(笑い)。負けずに一緒に走り続けましょう」。
泣けてくるひと言だった。胸に響くひと言だった。大きな拍手が北風を押しのけた。
◇早川英里 1981年(昭和56)11月15日、東京・世田谷生まれ。都立駒場高と成蹊大では800メートル選手。今大会4連覇のほか04年サンフランシスコ・ナイキハーフなどでも優勝。フルでは04年ホノルル(2位)の2時間28分11秒が自己最高。
◇ハイテクスポーツ塾 (電話)03・5281・3315 http://www.hi-sports.com/index.html
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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