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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」

2007年03月06日更新

スノーシュー履き、夜ハイク

車山高原でツアー体験

 ウサギの足跡を見つけた。それに交差するように、キツネの足跡が凍った雪の上に付いていた。ウサギが直角に向きを変えている。追跡者に気付いたのだろうか。薄いもやを通して届くスキー場の照明が真夜中のミステリーを盛り上げる。長野県車山高原スキー場で、地元のガイドさんに付いてスノーシューのナイトハイキングを体験した。夕方の単独歩行では危険も知ったが「人間雪上車」になった気分は最高だった。



山頂から夕日、白夜の南極のよう

スキー場の照明がミステリアスだ。田中さんのガイドで夜の雪山を楽しんだ(長谷川文撮影)
スキー場の照明がミステリアスだ。田中さんのガイドで夜の雪山を楽しんだ(長谷川文撮影)

 ナイトハイクにはまだ時間があったので、夕日が落ちかかるころに車山から霧ケ峰へと続く稜線(りょうせん)へスノーシューで上ってみた。さくさくキュッキュッと、小気味よい音がする。3年前に1度使っただけだが、違和感はない。高原状の車山山頂近くに立つと、まるで白夜の南極のようだった。風が渡っていく。体感温度は氷点下だが、どこかに春のにおいがした。季節もここを渡っていくのだろう。

 スノーシューはいわば人間雪上車のキャタピラだ。幅約30センチ、長さ約50センチ四方のプラスチック板で、裏側に、金属の歯が取り付けてある。シューズを固定して歩くと板が雪を押さえ込み、なおかつ歯が滑り止めとなる。シューズのかかとを上下できる構造なので、雪のある所を楽に歩ける構造だ。



車山の肩にかけての稜線で夕日を追った。南極の白夜のようだった
車山の肩にかけての稜線で夕日を追った。南極の白夜のようだった

 けれど、万能ではなかった。車山に来る途中、白樺湖付近で夏用のハイキングコース「信濃路自然歩道」で、シューズとの当たりを点検した。3年前に試用しただけなので、自信がなかったのだ。雪のがけで試し履きしたら、周囲2メートル四方の雪がいきなり滑り落ち始めた。

 ズルズル落ちる。ちょっと、ちょっとちょっと。文字通り「ゆき」詰まった。たちまち雪まみれ。輪かんじきだとある程度雪は潜るが蹴り込みが利く。スノーシューは潜りにくいが、横向きのサイドステップが難しい。スノーシューを脱いではいずり下りた。

 苦労しても限界を知っておくのは山では大切だが、後で「自然保護から冬はあの道は使わないことになっている」と知らされた。若いころは「報道陣立ち入り禁止」のロープを突破するのが得意だった。やり過ぎて米国で警備員に銃を抜かれたこともある。でも、自然相手の領域侵犯は自分でも許せない。ネーチャー派失格だ。しょげた。



雪面に足跡ウサギは逃げたか

夜は雄弁。ウサギが右から左へ移動して、キツネの足跡がこれに交差していた
夜は雄弁。ウサギが右から左へ移動して、キツネの足跡がこれに交差していた

 午後8時。スキー場の入り口スカイシティで蓼科・八ケ岳国際自然学校の車山校長田中一成さん(59)と落ち合った。ナイトハイクのガイドさんである。登山の達人で27年前から近くのクリムゾンヒュッテを経営している。「刻一刻と景色が変わるのがこの高原の素晴らしさ。いまだに飽きません」。この夜は暖かかったが、24日のナイトハイクはマイナス12度まで下がったそうだ。

 スキー場の東の縁をかすめながら、稜線に上っていく。一定ペース、プロの歩きだ。こちらも不思議と疲れない。ゲレンデのナイター照明が山の東側いっぱいに映えて、薄いもやに広がっている。ライト無しも足元に不安はない。

 静まり返ってはいても、夜の雪面は雄弁だった。キツネとウサギの足跡が交錯していた。「キツネも満腹と見えて、真剣には追ってませんね」と田中さん。「ウサギは直進と見せ掛けて右へ逃げたのか、家族のためにおとりになったのか。面白いですねえ」。おやじ、すっかり星空の金田一。

 白樺湖方面の空がオレンジ色に燃えている。ペンション村の明かりが星のようだった。



うっすら汗、夜が優しかった・・・

蓼科・八ケ岳国際自然学校の車山校長田中一成さん(59)
蓼科・八ケ岳国際自然学校の車山校長田中一成さん(59)

 昔は、こんな夜間行動はご法度だった。スノーシューは実に快適、便利この上ない。急に冬山の達人になった気さえする。

 田中さん 「年配者や子どもたちが夜の雪山までも気軽に楽しめるようになった。浸透したのはここ10年ほどだが、冬の登山地図が一変しつつある。ただし能率の良さからつい夢中になって天候急変に気付かなかったり、雪崩の危険個所など立ち入り禁止区域に知らずに踏み込むことも。個人で楽しむときは入山届も忘れないように」。

 その点ガイド付きのハイクは安心である。雪の上につんと顔を出したレンゲツツジの枝をよけながら、約2時間。うっすらと汗をかいた。夜が優しかった。

 ようし、いつかスノーシューで北極へ行こう。クマの足跡を追跡するのだ。



 ◇スノーシューハイク 車山高原スキー場で受け付け。スノーシューのレンタルあり。半日と1日コース(日中)、親子体験教室、シニアトレッキング教室などがあり、ナイトハイクツアーは3月10、17日の予定。(電話)0266・68・2626 http://www.kurumayama.com/index.htm



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プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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