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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」

2007年03月20日更新

ママチャリだからこその旅

うなぎを買いに、川越へ往復60キロ

 またの皮が擦りむけてしまった。体力は使ったが、驚くほどストレスのない旅だった。普通の買い物自転車(ママチャリ)でサイクリングに挑戦した。孫の好物、うなぎのかば焼きを買うために、埼玉県川越市まで足を延ばした。往復60キロ超、帰りは向かい風でひと汗かいたが、高価なスポーツ車でなくともツーリングを楽しめた。ママチャリだけのレースもある。ふん、舶来のロードレーサーが偉いわけじゃない。実用自転車、侮れないぞ。



川越の古い街並みを楽しみながら、孫の土産にうなぎのかば焼きを買った(亀田正人撮影)
川越の古い街並みを楽しみながら、孫の土産にうなぎのかば焼きを買った(亀田正人撮影)

 孫がまもなく2歳になる。うなぎが好物だ。1度老舗のかば焼きを食べさせたら、大喜びで跳びはねた。ただし、ふっくらした国産でないと満足しない。近くのファミレスでうなぎ定食を取ったら、ひと口食べて下を向き「ちがーう」。皿を押し返したことがある。

 当初の予定は自宅から10キロ足らずの練馬区石神井公園へ、春風の中をのんびり走る小冒険だった。舶来の高価なスポーツ車も欲しいがママチャリだって立派な自転車だ。それを立証するための、いや半分はひがみ根性からの思い付きだった。

 土曜日の朝、ぬらくらと家を出た。途中で電話が来た。「孫が来て、うなぎを食べたがっている。石神井なら同じ方角だからついでに川越で買ってきてあげて」。ばかか。方角は同じでも川越は埼玉県だ。確かに女は地図が読めない。そういえばベニスから帰ってきた日に「今度はベネチアがいい」と言いましたね。

 もっとも、川越なら縁がある。くしくもママチャリだけの公認レースが4月8日、水上公園で開かれる。ものはついでだ、行ってみるか。往復60キロ超、距離は不安だが決意した。

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前かご付きだから背中は軽い。思いのほか、走りの戦闘力は高かった
前かご付きだから背中は軽い。思いのほか、走りの戦闘力は高かった

 36号保谷志木線という狭い道を走った。ロードレーサーだと凹凸の多い歩道は走る気にならないが、ママチャリはタイヤが太いし頑丈だ。人が多ければ車道を走り、トラックが来たら歩道に逃げる。臨機応変、戦闘力は意外に高い。

 普通の26インチタイヤでギアも1段。飛ばしても時速20キロだが、レース用でも込んだ道ではあまり変わらない。上り坂でMTBの学生を1台抜いた。ママチャリは腰の位置が前だから踏み込みやすいのだ。

 新座で川越街道に出た。車道に出ようとした乗用車に行く手をふさがれた。いつものように「どけ、こら」と怒鳴ろうとしたら、妙齢の美人が会釈して、不器用そうに車を後退させた。ついこっちも頭を下げたら、また丁寧におわびの会釈でほほ笑み返し。突然善人になった気がした。

 最近、自転車はどこを走るべきかという論争が盛んだが、よしんば自転車道が整備されてそこに押し込められるより、人や車と譲り合いながら、自由に走る方がずっといい。自転車の自は自由の自だ。規則よりまず日本人の心を整備せよ。



ボート池周回コースを試走。すぐその気になるのがおやじの特性だ
ボート池周回コースを試走。すぐその気になるのがおやじの特性だ

 力んでも一定速度しか出ない自転車だ。体力は使うがペースをつかむと意外に楽だ。前かごの水やみかんを走りながら口にした。3時間足らずで川越水上公園のボート池に着いた。

 レースは池の周囲600メートルを走る。「前かご、チェーンケース、泥よけを着けたままで無改造」が条件という。試走した。1周全速で65秒だった。

 後でMTBのプロライダー、山口孝徳さん(32=チーム・スバル=エンドレス=プロライド)にママチャリレースのつぼを聞いた。

 山口さん 「僕もママチャリで仲間とレースごっこをして育った1人です。ママチャリはサドルを高くし、ペダルにつま先を乗せてなるだけ高回転でこぐのが有利。コーナーは外側から、必要なら後輪だけ少しブレーキをかけて入るのがこつ。内側に突っ込み過ぎると危険です。自転車屋さんで整備してから参加してください」。



にぎわう川越の町を走る
にぎわう川越の町を走る

 川越の古い街並みに戻って「いちのや」のうなぎ弁当を買った。タオルにくるんで前かごに入れた。

 昔は川越といえば田舎の印象が強かった。茶色い車両をちぐはぐに連結した東上線はイモ電車とも呼ばれていた。時代は変わった。町は美しくなり、にぎわっていた。

 風が南に変わったので帰りは往生した。畑の中を近道しようとすると、ぶわーっと押し戻される。配送のバイトでなじみのある旧街道をたどった。懐かしい。

 帰ると孫が「たらいまあ」と、飛んできた。包みを開くと「わあい、う、う、う」。まだ温かいのを丸ごと手づかみでほお張った。スポーツ車ではリュックサックに入れて背負うしかない。それではかば焼きが崩れたに違いない。ママチャリだからこその旅だった。

 でもパンツが食い込んだのか、またの付け根がひりついた。皮がむけたのだ。おかしな歩き方をしたら孫がげたげた笑うではないか。「じったん、いっちゃい(痛い)?」と気遣いながらも、また擦れ歩きのまねを始めた。この恩知らず。



狂喜した孫は、好物を手づかみでほおばった
狂喜した孫は、好物を手づかみでほおばった

 やっぱり金をためて、またの擦れない舶来のマシンを買おう。ちびになめられてはたまらない。台湾製ならきっと買えるに違いない。



 ◆ツール・ド・ジャパン(中野浩一V10メモリアル)2007第1戦「川越ステージ」 4月8日(日)川越水上公園 各カテゴリー別レース(6000円)のほか小学生、ミルキー、ママチャリの部(いずれも2000円)およびチームTT(4000円)。全員に参加賞。申し込み締め切り3月30日 【事務局】(電話)03・3547・0900 https://www.nikkansports.com/event/tour-du-japan/07/tour2007.html



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 【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥
プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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