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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」
2007年04月03日更新車輪付きヨット?風のF1ブローカート
あおむけ操縦、地上50センチの目線、体感速度は想定外
砂浜を帆で走る、車輪付きヨットのような乗り物をテレビで見た。これをやりたい! おやじの心は子どものように純真なのだ。インターネットで検索したら「ブローカート」というのが出てきた。日本協会を運営しているジミー(45)ナオコ(33)バンノート夫妻に連絡し、茨城県の波崎に出掛けた。すぐ乗せてくれた。すごいスリルだ、まるで風のF1だ。むろん得意の大転倒も体験したが、未知のスポーツに若き血が大騒ぎした。
「簡単でしょ」
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| 切れ味抜群。還暦おやじがF1レーサー気取りでコーナーへ飛び込んだ(亀田正人撮影) | |
波崎漁港は春特有の北風が強かった。
桟橋横の広いスペースを、マシンは滑るように走り始めた。驚くほどスムーズだ。F1のようにあおむけになって操縦する。目線の高さはせいぜい地上50センチだ。路面がテレビゲームのように一気に後方へ流れ去る。体感速度がぐんぐん上がる。思わず「こわっ」と叫んでしまった。半分おどけで半分本音だ。
恐怖心で網膜が引きつったのか、ドップラー効果のように視界が狭まった。総重量わずか25キロ、スチールフレームに車輪が3つと、高さ3メートルほどの三角セール(帆)が付いているるだけだ。透明カバーに囲まれてはいるが、コックピットは生身に近い。
風がエンジンだ。一方の手でシート(ひも)を引いてセールの向きを変え、もう一方の手でハンドルを握って前輪を操作する。
走る前に「簡単でしょ」とナオコさんから説明を受けた。微笑の支え釣り込み足に思わず「はい」と答えたはいいが、走りだすと想定外の超過速度だ。頭の中が真っ白だ。どんどん走って止まらない。おい、ブレーキはどこ! 僕ちゃん、どうなるの?
br clear="all" />ブレーキなし
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| 基本操作は10分で覚えた | |
ブレーキは最初からなかった。シートを緩めて風上にマシンを向ければ自然に止まるのだ。ブローカートは不思議な乗り物だ。
新しい乗り物の新しいスポーツ競技でもある。車輪付きの風力カーは100年以上の歴史があるが、7年前にニュージーランドの元ヨットのエンジニアが軽量で手軽な競技マシンを開発した。それが世界に広まった。マシンはすべて統一規格、まさに風のフォーミュラカーだ。
ニュージーランド出身のジミーさんと結婚したナオコさん(旧姓久保)も、たちまち魅了された。ジミーさんもIT企業を辞めてマシン開発に携わり「2人で日本に普及させる仕事をしよう」と決断したという。3年前に協会を設立し、これまでに約3万人が体験試乗。現在では全国15のクラブに発展している。
ナオコさん 「デパートの屋上など、どこでもできるし、芝生でも砂浜でも走行できる。フルセットで30万円台という手軽さもある。下半身が不自由な障害者の方だって同等にレースができるし、極めて安全なのも特徴です」。
極めて安全? じゃあ転倒しないねと聞くと「転倒はします。風を強く受け過ぎると風側の後輪が浮いて転倒します。だから」そういう時は風を察知してシートを緩める。それでも転倒するときはするという。
転倒ズズーン
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| 強風の波状攻撃でマシンが浮いた。この後トホホの大転倒 | |
事実、こけた。20分ほど乗ってようやく慣れたころ、ぶわっと右から強風を受け後輪が浮き始めた。反応素早くシートを緩めたが、締め直した瞬間にまた風がきた。体が大きく宙に浮く。ズズーン! 気が付いたら横倒しのまま滑走していた。シートベルトにヘルメット。確かに安全だ。どこにもけがはない。傷ついたのはおやじのプライドだ。
何しろコーナーでのマシンの動きはF1を超えるほどの俊敏さだ。パイロンで設定されたヘアピンコーナーのインぎりぎりを狙っても後輪が流れない。前輪が水平近く倒れ込むから、そのままクイッと回ってしまう。おれはセナかプロストか。錯覚するほどの切れ味だ。「うまいねゴトさん」とジミーさんに褒められて少しいい気になっていた。
もう1つ勘違いしていたことがある。地元で塗装業を自営する村田文昭さん(40)とジミーさんの3人で模擬レースを始めたら、2周目にもうラップされた。ライン取りが全く違う。
風察する感性
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| 波崎漁港で、左からジミーさん、ナオコさん。右は村田さん | |
「乗る前に説明したように、ブローカートでは、真横から風を受ける時がいちばん速く走れます。だからコーナー間を最短距離の直線で結ぶのではなく、常に風の意識を優先してラインを取ります」とナオコさん。なんだ、乗る前に教えてくれればよかったのに。
ちなみに、ヨットでは斜め45度の風でも風上側に進めるが、ブローカートは15度でも進む。そうなると走る技術は風を察知する感性と、後は頭脳だ。おお、おやじの最も得意の分野だ。
そう言うと「今なら世界チャンプも夢じゃないよ」と夫妻にけしかけられた。
最も大きな国際大会はニュージーランドオープンだが、体重別に分けられたクラスでナオコさんは05年2位、06年9位。ジミーさんは6位、5位。村田さんもキャリア1年で昨年に8位に入ったそうだ。日本人向きかも知れない。今年秋にも第1回W杯を日本で開く動きもあるそうだ。
目下の最高記録は時速103キロ。よし、おやじも乗るぞ。「風のマンセル」でデビューして、世界のファンの笑いを取ろう。
◇日本ブローカート協会 〒314・0343茨城県神栖市土合本町4の9809の173(電話)048・649・3155 http://www.nihonblokart.org/
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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