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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」

2007年04月10日更新

背負子担いでレトロな旅へ

不老願って山登り、桜見ながら飯ごうカレー

 冬の間に手作りした背負子(しょいこ)がある。春うらら、こいつに飯ごうでもぶら下げてどこかに出掛けよう、どうせならわらじに地下足袋で低山を歩いてみようと考えた。レトロなスタイルは人の心を和ませる。若い女性が珍しがって寄ってくるかも。地図を探って、西丹沢に不老山(ふろうやま=928メートル)という山を見つけた。ここにした。山は春たけなわだった。元気なオタマジャクシに、少しやきもちを焼いた。



オタマジャクシ

下流の中州。せせらぎを聞きながら、汁の垂れた飯ごうを返して蒸れるのを待った(長谷川文撮影)
下流の中州。せせらぎを聞きながら、汁の垂れた飯ごうを返して蒸れるのを待った(長谷川文撮影)

 世附(よづく)峠の手前だった。沢筋の水たまりをのぞくと、小さなオタマジャクシが群れを作って泳いでいる。春の日を浴びて、水がぬるんだのだろう。無数の卵を含んだゼリー状の卵塊から、次々に飛び出していく。滑り台やぶらんこに先を争って取り付いていく幼稚園児のようだ。元気いっぱい、かわいい声まで聞こえてくるようだ。

 息詰まるほどの生命力である。

 おやじ自身のオタマジャクシにはもうこれほどの元気はなさそうだ。それを思うと少ししゃくだが、こんな光景に接するのは何十年ぶりのこと。レトロな思い出が鮮やかによみがえる。

 いい山だ。静岡県駿東郡小山町と神奈川県足柄上郡山北町にまたがっていて、数本ある登山道は地元のNPOや愛好者の手で整備が行き届いている。近くには家族向きの大野山もある。今回は車で柳島の林道をゲートまで行った。ゲート近くで「不老の滝」を見た。

 峠までは非舗装の林道が続いて歩きやすかった。底の硬い登山靴だと逆に疲れるが、わらじ地下足袋だと衝撃を適度に吸収し、それでいて滑らない。最新式の登山用品の方が総合的には優れているが旧式の道具にもそれなりの味がある。道具と人は共通点がある。

 暇つぶしに作った背負子も腰や肩の骨に当たりが柔らかく、具合がよろしい。費用約1500円、不器用だから見場は悪かった。

 驚いたことに、途中で擦れ違った人にこの背負子を褒められた。「どこで買いなさった。何、自作かね。わしも1つ欲しいねえ」。おだてられて話が弾んだ。



「御利益あった」

背負子に飯ごうをくくって、わらじ地下足袋。はまりそうだ
背負子に飯ごうをくくって、わらじ地下足袋。はまりそうだ

 山好きの地元の人で80歳。百名山も60以上こなしたという。不老山の名は昔の雨降山(あめふろやま)がなまったものらしく、不老長寿の伝説があるわけではないそうだ。なんだ、がっかりだ。「でも、私自身には御利益があったんだ」。

 この方は生まれつき体が弱く、戦後も病気がちで教職を長く休んだという。「ところが胃かいようで休職中、学童時代に遠足に来たこの山に登ってみたら、それ以降急に元気になって、病気も完治した。奇跡だった。山歩きを始めたのもそれからだ」。だから山には深く感謝している、多くの人に来てほしいのだ、と。

 適度な運動が自然治癒力を刺激したに違いない。

 山の愛し方は人それぞれだ。山が人に与える恵みもまた、それぞれである。

 上りは2時間だった。快い汗をかいて腹が減った。山奥の沢では自然破壊や火の心配がある。ずっと下まで下りて、川の中州で小さな火をおこし、インターネットで買った980円の兵式飯ごうで昼食にした。



赤子泣くとも・・・

 ◇自作の背負子 広葉樹のサクラと針葉樹のヒバ。種類の異なる薄板(各幅3センチ、厚さ1センチ)を張り合わせて角材を作り、これを縦横に組み合わせた。丸棒を使って、自立させるための足台も付けた。背中が当たる部分に麻を巻き付け、残った麻で肩ひもを付けた。
 ◇自作の背負子 広葉樹のサクラと針葉樹のヒバ。種類の異なる薄板(各幅3センチ、厚さ1センチ)を張り合わせて角材を作り、これを縦横に組み合わせた。丸棒を使って、自立させるための足台も付けた。背中が当たる部分に麻を巻き付け、残った麻で肩ひもを付けた。

 今はカートリッジ式のガスコンロが普及して、たき火の場所も限られている。飯ごう炊さんなど死語に近いが、何となれば新聞紙だけでも炊けるのだ。いざというときのためにも1度はおさらいしておきたい。

 米のとぎ汁が生態系を壊すことがあるそうだ。前夜、家で米を3合といでビニールの袋に入れてきた。これに途中の「不老の清水」でくんだ水を同量流し込む。ふたがちょうど3合だから尺貫法世代には都合がいい。「0・54リットル」では頭のろれつが回らない。

 「初めちょろちょろ中ぱっぱ」とはいうが、米を水に十分浸した時は初めから強い火に掛けた方がいいとも聞いている。営業でいえば小当たりに相手の顔色をうかがうのでなく、いきなりずんと突くわけか。なるほど、何であれその方がおやじの性格に合っている。

 枯れ木で、小さいけれど強い火をたいた。しばらくたつと、白い汁があふれてきた。棒の先をふたに当てるとグツグツ感じる。やがて米が観念したか、静かになった。ひっくり返して蒸らす時がきた。

 うまく炊けたか気になって仕方がないが「赤子泣くともふた取るな」だ。のぞきたいがのぞけない。銭湯の番台に座るとこんなじれったさを味わうのだろう。

 どうも発想が「不良山」になってくる。

 上出来だった。

 約10分待ってからふたを開けると、ふっくらと白いご飯が炊けている。少し茶色に焦げた部分が香ばしい。1人では食べきれないが、カメラマンに分けるのが正直惜しかった。少しだけ自分の方に多く盛った。脇で温めておいた袋入りのカレーをかけた。これぞ華麗なる一食である。キムタクには食わせない。



燃えさしくくり

不老山山頂は静かだった
不老山山頂は静かだった

 見た目はのんびりと、でも内心は「あいつに負けるか」の欲に満ちた登山も悪くはないが、ただ飯を食べるために歩く山も桜の季節は格別だ。山は汚すな、食後は食器を紙でふき、燃えさしも背負子にくくった。背負子だと何でも担げる。

 後日、くだんの翁(おきな)にこの背負子を郵送した。お使いください、飯ごう一会、これも何かのご縁ですと書き添えて。



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 【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥
プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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