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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」

2007年04月24日更新

おっ忍者!?地上15メートルの空中散歩

富士山ろくに誕生、手軽な森林遊び

 子どももやっている。だから危険なはずがない、怖がるのはおかしいと思う。思うけれど、理屈と現実は別物だ。富士山ろくの森の中、地上15メートルの空中をロープにぶら下がったまま100メートル近くも滑空するのだ。ひざが震える。山梨県河口湖の近くで「フォレストアドベンチャー」に挑戦した。フランスで誕生した手軽なターザン遊びというが、どうして恐怖感は本格的だった。笑いは引きつり、おやじの白髪は一気に増えた。



おやじ忍者復活だ。地上15メートルの空中遊泳にほおが引きつった(長谷川文撮影)
おやじ忍者復活だ。地上15メートルの空中遊泳にほおが引きつった(長谷川文撮影)

 切り開いた森特有のにおいがする。都会を忘れてしまいそうになった。河口湖ICから車で10分だった。

 一般コースには3つの関門がある。はしごで太い木に登ると、ロープでつるされた丸木を伝う空中歩きや、ロープで編んだ網渡りが待っている。まるで海兵隊の訓練所だ。面白そう、という気持ちの裏口から早くも恐怖が忍び寄る。

 恐怖には2種類ある。

 本質的な怖さと「こうなるのではないか」と予測することで生まれる虚像の恐怖。おやじのようなまじめ人間ほど後者が募る。

 「誰でも体験できるのが特徴で、事故は絶対にありません」。責任者の金丸一郎(43)さんが言う。その通り、隣の台に取り付いた小学校6年生ぐらいの女の子がするする網を登っていく。もはや言い訳無用、ぶさまなまねはできない。



腰と太ももにハーネスを装着。安全は確保されている
腰と太ももにハーネスを装着。安全は確保されている

 「今度は空中遊泳です。さあ、そのまま思い切って滑り出して」。コース2番目の関門「ジップスライド」だ。金丸さんが下から呼び掛ける。待って、まだ遺言を書いてない。

 3段構えの台の最高点は地上15メートルにも達している。不安定な空中丸太歩きを何とかこなしてやっと登り詰めたのだ。下を見まいとするがつい見てしまう。落ちたら痛かろう。

 そこから90メートル先の木にロープが張り渡してある。安全は確保されている。腰だけでなく両の太ももにもベルトを巻き付ける安全ベルト(ハーネス)を着用し、それを太い綱とカラピナで滑空用の滑車に固定する。手を離しても下には落ちない。

 理屈が分かるが下半身は正直だ。おしっこがしたくてたまらなくなった。老人性頻尿症か。我慢しよう、チビったら空中散布だ。

 ためらっていたら後がつかえた。「カメラ、もう準備できたかなあ」。仕事で鍛えた責任転嫁術でごまかしながら、覚悟を決めて宙に身を躍らせた。反動でロープがぐらぐら揺れる。劇画で見た大奥のもっこ責めシーンを思い出した。おやじ、乱にいて色を忘れず。

 シャーッと滑車が滑り出す。上空の木の枝が影絵のように飛び去っていく。どんどん速度が上がって「ヒューッ」という音が耳を切る。忍者ごっこはあこがれだった。夢がかなった、でも50年遅い。もう止めて!



フランス人の一家も楽しげに挑戦していた
フランス人の一家も楽しげに挑戦していた

 その間約10秒。自然に足が地面を引っかいて、気が付いたら後ろ向きに止まっていた。「こりゃあ面白い」。小走りに駆け寄ってきた金丸さんに笑い掛けたが、ほおが引きつっている。「皆さん、そうおっしゃいます」。見透かされたか。

 けれど、次々と夢中でチャレンジしていくうちに、妙な自信がついてきた。宙に飛び出す前にハーネスに全体重を預けてしまうと揺れが少なくなる。そういう小技を身体が自然に習得し始めた。「おれってこんなこともできたのか」。変に感動し始める。

 金丸さん 「まさにそこですよ。実はこれは企業の幹部研修用にスイスで開発されたアイデアなんです。自分を知っているようで知らないのが現代人。出世しようとするあまり自分を社会や会社の枠に押し込め過ぎて、可能性や夢を勝手に縮小する傾向がある。そこで『こんなこと』と、常識が即座に拒否するようなことを、安全を確保した上でやらせてみる。自己イメージを押し広げるプログラムなんです」。

 それがフランスで家族向けのウッドアドベンチャーとして各都市に広まった。長崎出身、ウインドサーフィンなどの遊び心が豊かだった金丸さんが、昨年秋に15ヘクタールの原野を開いて施設をオープンした。

 企業研修も含めてすでに来場2000人、この日もフランス人一家が楽しげに遊んでいた。ゴールデンウイークお勧めメニューだ。



綱渡り人生の集大成か、揺れる足場を必死で探る
綱渡り人生の集大成か、揺れる足場を必死で探る

 圧巻は11メートルの台からロープにぶら下がり、15メートル先に広がっているネットに飛び付く「ターザンスイング」別名人間かすみ網。ハーネスで結ばれていても、命綱から「手を離して」飛ぶのを体がなかなか納得しない。

 無理して飛んだ。手を離すのが遅くてネットに激突、全身が張り付いた。あわてて両手でつかまったがクモの巣に掛かったシラケドリの気分だった。そこから揺れるネットを伝って左の台によじ登るのが一苦労、上がれば70メートルと80メートルの「ジップスライド」がまた待っていた。

 1周1時間半。体の各部から筋肉痛のメールが届き始めたが、人類はもともと樹上生活者。「よかった、面白かった」という報告が圧倒的に多かった。原点回帰だ。ゴールしたときは無邪気な顔になっていた。

 スリルが男を磨くのだ。よし、いつかビルの壁登りにも挑戦しよう。おれの人生、きまじめ過ぎた。これからは羽目を外して、人格の拡張を心掛けるのだ。



 ◆フォレストアドベンチャー・フジ NPO(田桑正樹代表)が運営。初心者と幼児(5歳以上、身長110センチ以上)向きのディスカバリーと、一般向きのアドベンチャーの2コース。午前9時~午後5時。山梨県南都留郡鳴沢村富士山8545の1、(電話)0550・72・0970 HP=同名で検索



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プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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