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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」
2007年05月01日更新掘り出し物は…
小1時間で裏木戸1枚、山小屋管理の苦労知った
標高2440メートル。南アルプス南御室(みなみおむろ)小屋は名峰鳳凰三山への足掛かりとして、古くから利用されてきた。連休2週間前「雪に埋まった小屋を掘り出す仕事がある。見学に来ないか」とのオファーをもらった。おじけづいたが先週ついに覚悟を決めた。オーナーの小林賢さん(57)に連絡してスタッフに同行してもらい、掘り出し体験に初挑戦した。小屋の管理がこれほど大変とは思わなかった。
春山は怖い
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| 15分で息が切れた。小屋の管理がこれほど大変とは(長谷川文撮影) | |
この季節、山では春と冬とがボクシングをして、ジャブを出し合う。次第に春がポイントを重ねるが、時として冬が繰り出すカウンターがクリーンヒットする。そうなると天気は大荒れ、運が悪いと遭難事故だ。春山は場合によっては冬より怖いとプロが言う。
だから初めは誘いを断った。でも1度は体験したいと思っていたから、1週間後に「やっぱり行きます」。無理に頼んだ。
小林さんからも「雪は少なかったが、山の最低気温は例年とあまり変わらない。穏やかな山だが、この時季はアイゼンなどの装備を忘れずにして欲しい」と注意を受けた。
夜叉神(やしゃじん)峠の駐車場から上った。峠を越えると傾斜が緩やかになった。百名山にも数えられる名峰だけにシーズン中は年配者も多い登山路だ。
8キロ5時間
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| 正面に3000メートル峰。夜叉神峠経由で登った | |
快適なハイキングにも思えたが難所はあった。杖立(つえたて)峠の前後2、3キロは日当たりがいいので逆に雪が解けては凍り、登山路がアイスバーンになっていた。アイゼンで蹴り込んだ。その先は尾根の裏(東側)で雪があり、かえって楽だった。
右足が痛むので、1歩1歩右手で右太ももを引き上げて上った。「1人小またすくい」の秘技だった。
距離にして8キロ、ガイドブックの基準タイムちょうど5時間で着いた。林の中の下り斜面をスノーシューでゆっくり下りると、小屋の青い屋根が目に飛び込んできた日に当たって、周囲の雪がきらめいている。風が木々の上を通り抜けた。早春の香りがした。
薬師、観音、地蔵ケ岳と連なる鳳凰三山の頂上部へは後わずかだ。江戸時代にもこの場所に小屋が設けられ、山岳信仰の信者たちの仮宿になっていたと聞く。今も古銭が出るそうだ。
日ごろ信仰に縁が薄いからこそ、こういう所におやじは弱い。手を合わせて拝んでから小屋へ入った。
目がくらむ
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| 登り5時間、鳳凰三山南御室小屋に着いた | |
緊急避難のために冬季も戸の鍵がかけられていない。荷物を置いた。スタッフが氷を割るツルハシとスコップを取り出した。
「今年は雪が少なかったから、主なところは先週掘り出しました。裏木戸の前を掘ってください」。裏手へ回ると、木戸の前が雪の小山になっている。力任せにざくざく掘り出した。
突っ張る腰が案の定痛くなった。表層部は普通の雪だが、じきに凍った部分に到達し、がんがん打ち込まないとブロック状に切り出せない。掘るのもきついが雪の塊を放り投げるのがこれまた大変だ。「もっと南側に出してください。北側だと雪が解けません」。スタッフに迷惑を掛けっぱなしである。
目がくらむ。以前、谷川真理さんのハイテクスポーツ塾で低酸素室を体験した。15分で苦しくなった。ここでも15分で息が上がった。低酸素室では外に出れば回復したが、ここには「外」がない。行き場がなくておろおろした。スタッフが白い目で見ている。
連休へ整備
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| 下まで掘れた。ギャラは要らない、酸素をください | |
小屋の管理がこれほど大変とは思わなかった。一昨年に少し上の薬師岳小屋で体験したボッカ(荷上げ)も苦しかったが、あれは夏。冬の間に屋根まで埋まった小屋を掘り出すのには「機械(ユンボ)を使ってもスタッフ数人で1週間かかる。連休前には小屋周辺の整備を終えておかないと」(小林さん)。
小屋だけではない。
同行したスタッフは上りながら登山路に倒れた木を切り、1歩1歩スノーシューで踏み込んでは雪に踏み跡をつけていた。道の整備も仕事なのだ。歩くだけのおやじとは偉い違いだ。
パワーも違った。「ちょっと代わりましょう」とスコップを手にすると、あっという間に積雪を片付けていく。人間除雪機だ。
こっちも意地がある。やります、やらせてと奪い返してまた掘り出したが、木戸の前の穴が深くなると、放り出したつもりの雪が壁に当たってまた戻る。トタン屋根から雪解け水が滴り落ちて背中をぬらす。
泣きたくなった。
山に教わる
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| 連休は潮干狩りで貝を掘ろう | |
それでも小1時間で木戸の底辺に穴が達した。敷居をさすって感激した。完全ではなかったが、ともかく少しは働いたのだ。昼をとうに過ぎていた。「時間です。もう下りましょう」。そうしましょう。
初めから足が痛い、春山は侮れないと下手に出たせいか、下りもけっこうスムーズだった。3時間で駐車場。何事も新人、初心者の気持ちで臨めば危険も少ない、腹も立たない。山に教えられることは無限大だ。
次の日から山はまた雪に見舞われた。電話したら小林さんが苦笑していた。「掘り直しですよ。もう1度挑戦しますか」。
「いえ、残念ですが連休は仕事なので」と、辞退した。小屋の仕事はあまりに苦しい。連休は暇だ。孫と一緒に潮干狩りがいい。鍛えた技で貝を掘るのだ。
◇南御室小屋 (電話)0551・22・6682(薬師岳小屋共通) http://www.yin.or.jp/user/houousan/
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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