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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」
2007年05月22日更新うだつが上がる町で息も上がった
妖気漂う山道へ・・・傾斜きつく、足がもつれる、ダンシングしても進まない・・・
岐阜県美濃市は「うだつの上がる町」として有名だ。20日に大阪をスタートする日本最大の国際自転車ロードレース「TOJ(ツアー・オブ・ジャパン)」の第3ステージがここに新設された。競技3日目の22日には9カ国16チームが古く美しい町並みと長良川沿いの新緑を疾走する。欧州でも活躍した元日本王者、大石一夫さん(46)に並走を依頼し、本番を前にコースを実走してみた。素人サイクリストの場合、うだつが上がる前に息が上がった。
1段高い小屋根
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| 最大の難所、大矢田トンネルへの上り。大石さん(左)の見事なダンシングに比べ、マシン(アマンダ24インチ)はいいがうだつの上がらぬおやじの走りよ(長谷川文撮影) | |
商売などがうまくいかないと、世間ではよく「うだつが上がらない」などという。「うだつ」って、何?
江戸時代、豊かな町屋では1、2階の屋根の間に防火壁を設置して、さらにその上に1段高く小屋根を上げた。これが「卯建」で、その豪華さが富や格式の象徴にもなった。美濃ステージ新設の功労者で地元のサイクリスト後藤穂さん(58)に教えてもらった。
語源は木造建築の柱の1種らしいが、こっちは五十肩が長引いて、腕すら上がらぬ人生だ。情けない。
対して美濃では中心部が当時のままの姿を保ち、美濃紙の豪商だった旧家のうだつが五月晴れに高々と映えていた。美濃ステージは22日午前9時15分、ここをスタートする。パレードで集団走行してから周回コースを7周半。ゴールの「美濃和紙の里会館」まで164・1キロを4時間足らずで走り抜ける。平均時速は42~46キロだ。
それをなぞった。
美濃ICを左に見ながら県道を西、さわやかな風だった。新緑の香りが肺いっぱいに流れ込む。市場の交差点を北上すると、婦人会の人たちが道端に歓迎ののぼりを立てていた。「大会ももうじきやなあ」「あれ、はや走っとるがな。頑張って」。都会のいら立ちがすーっと消えていく。
「食人鬼」出る!?
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| スタートはうだつの上がる町並みの中心部 | |
その和みが一変した。大矢田トンネルに向かって上り始めると、妖気漂うような山道になる。そういえば高僧夢窓国師が美濃の山奥で「食人鬼」に出会う話を小泉八雲が書いていた。
もしかして、この辺り?
何となく不気味で気が焦る。傾斜がきつくなる。金縛りにあったように息が止まる。足がもつれる。と、一陣の風。首筋がひやっとした。10分遅れでスタートした大石さんだった。追い付かれてほっとした。
「ダンシングでいきましょう」。大石さんは腰を上げても自転車が左右にぶれない。頭が上下動しない。対しておやじ、大げさだが進まない。トンネルに荒い呼吸がこだました。
トンネルからは快適な3キロの下りだった。長良川沿いに出ると、ゴール地点まではわずか1キロ。22日当日は激烈なもがき合いが見られるはずだ。
大石さん 「上りがポイントになるのは間違いない。ただ距離が短いので、上りに強い選手が後続を引き離せるかどうかは微妙。むしろ長い土手沿いの部分が重要な伏線になるのでは。細かな起伏もあり、風の影響も大きい。上りを視野に入れながら、この土手沿いでチーム戦略をどう構築するかが興味深い」。
前夜を含めて計5周、1周40~50分で走ってみたが、確かに土手沿いは時速30キロ保持が難しかった。複数の要素を持つ多面体のコースだけに、本番では予測できない何かが起きる。
「本物を見せる」
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| 長良川沿いで地元の後藤さん(左)も合流、すごい健脚だ | |
ツールドフランスなどと同じチーム戦である。チーム6人が、最後にエースを勝たせるために役割を分担する。おとりとなってむちゃなほど先行する者、エースをガードしながら次の動きの指令を待つ者、むなしく後方をただ追い掛ける、おやじのような者。初めて接する沿道の人にも、ロードレースの面白さが忘れられなくなるはずだ。
長良川沿いで市の体協副理事長でもある後藤さんと合流した。「本物を見せること。それが自転車競技発展への最短距離だと、ずっと思ってました」。元来はスキー教師。オフトレに始めた自転車にはまり、40歳の時には京都国体で優勝した。中野浩一さんのチーム「チェブロ」に属し、競技の普及に尽力してきた。15年来の悲願が、市内約400人のボランティアの協力でようやく実現する。
草の根からのドラマだ。
そういえば86年に当時のアマ最高峰「ツールドラブニール」(フランス)で完走した大石さんも元は秋田県のホビーレーサー。「内側のすべてをたたき出して闘うロードレースに野性の本能が反応した」。90、93年には全日本で優勝した。「既存の枠からはみ出ているような草の根パワーを、将来の日本の競技力に直結させたい。TOJが野性の刺激になってくれれば」と、熱い思いを寄せている。
美濃流もてなし
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| 名車MBKと今なお健在の脚力。大石さんは長野件安曇野のショップ「シクロオオイシ ラブニール」(電話)0263・83・8797を拠点に幅広く活動中だ。http://www.lavenir-oishi.com/ | |
美濃路のコースは無音の道だ。タイヤが小石をはじくプツプツという不快な音が全く聞こえない。路肩までもが丁寧に清掃されていた。美濃流のもてなしだ。「ツーリングにもぜひ来てください」と後藤さん。 あれ、もしかして親類? でもあの健脚に、血のつながりはなさそうだ。
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| 中央が後藤さん、左が大石さん | |
◆UCI(国際自転車競技連合)公認第11回ツアー・オブ・ジャパン ◇参加16チーム(海外8、国内8)=1チーム6人 ◇日程 ▽20日大阪・堺市泉北140・8キロ▽21日奈良・山添村布ダム146・2キロ▽22日美濃164・7キロ▽23日南信州・飯田155・3キロ▽25日富士山・あざみライン11・4キロ=個人TT▽26日伊豆・日本CSC128・5キロ▽27日東京・日比谷シティ前午前11時スタート、大井埠頭(ふとう)周回148・9キロ ◇総距離895・5キロ
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【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥
- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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