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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」
2007年06月05日更新むき出しになった生の地球に触れ、知らない自分があふれ出る
砂漠ランに挑み続ける女性、田中友佳子さんにその魅力を聞く
果てしなく続く砂と岩。満天に広がる星の瞬き。砂漠を初めて走った時、絵本作家の田中友佳子さん(34)は「むき出しになっている生の地球に触れた気がした」そうだ。6月、ゴビ砂漠250キロを7日間で走る「ゴビ・マーチ」(中国)に今年も日本から9人が参加する。田中さんもその1人。昨年のサハラでは年代別で優勝したが「私、長距離選手ですらないんです」。普通の女性が魅せられ、挑み続ける砂漠ランとは。田中さんに聞いた。
本能の誘惑
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| 白い砂と岩。田中さんは、砂漠はむき出しになった「生の地球」のようだという(藤崎将士撮影) | |
「5年前に初めてサハラ・マラソン(モロッコ)に出た時、2日で足の裏全体がマメになった。はれ上がったので、次の朝は足が靴に入らない。痛くてトイレにさえ行けない(笑い)。でも人間って不思議。我慢して1歩踏み出すと、もう2歩目に挑戦している。じきに痛さを忘れて、夢中で集団を追っている。約700人中最後から5番目だったけれど、7日間230キロを完走した。虚弱体質だったし、長距離ランナーですらなかった。だから最高に幸せだった」。
東京・町田市出身、武蔵野美大卒。アルバイトをしていた時、ベテランの藤崎保江さん(38)がサハラに挑んでいる記事を読んだ。大学時代、北京からウルムチへの横断旅行で、ゴビ砂漠を車で通ったことがあった。「こんなふうに走れるなら、もう1度私もこの足で砂漠を渡りたい」。
本能の誘惑は強かった。
「事務局に聞いたら、素人でも大丈夫と言われた。家の近所を走って自分なりに練習したけれど、不安はあったが1年半後に初挑戦した。何も知らないから硬いリュックサックに、好きなナッツやドライフルーツを詰め込んだ。慣れた人の倍ぐらい、15キロの荷になった。それを背負って走りだした。背中が擦りむけた。でも砂漠って、生の地球がむき出しになっていて、太古からの本物の地球に触れている感じがする。その感激で、痛さなんて」。
夜中に迷子
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| 昨年のサハラでは年代別で優勝した | |
163センチ、47キロ。細い。それが砂漠でさらに4キロ減るが、ここ一番で体の奥底から無限のエネルギーを絞り出す。
昨年からは藤崎さんが日本事務局を務める「レーシング・ザ・プラネット」のイベントに参加し始めた。96年に設立されゴビ、サハラ(エジプト)、アタカマ(チリ)、ベトナム山岳地帯、南極砂漠のシリーズ戦を組んでいる国際組織だ。
主催者によってルールも細部は異なるが、参加費用は30~40万円。基本的には水と湯、テント以外はすべて自給自足で、レトルト食品などの7日分の食糧を自分で運ぶ。1日30~50キロ。サバイバルランの要素が含まれている。
「日中は50度近い。夜は10度前後まで下がる。砂嵐あり、迷子あり(笑い)。昨年10月のサハラ・レースでは5、6日目の連続90キロ区間で真夜中にミスコースした。残り10キロの地点、どうしよう、どうしようと星明かりを頼りに2時間近くウロウロ。もう駄目と思った時にスタッフの車のライトが見えた」。
通算38時間。女性全体で4位、30歳代年代別優勝に輝いた。初挑戦以来練習の量を増やし、質を工夫してきたが、制限24時間の「長谷川恒夫カップ」(多摩丘陵約70キロ)では17時間。最速のクラスではない。
でも強い。
「タイムなど気にしたこともないし、だからこそつらくても楽しく走れる。砂漠は持久戦。私なんて走らずに歩いちゃうし」。
絵本に体験
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| テントではボランティアのサポートを受ける | |
歩いてもいい。通算12レースを経験している藤崎さんは今年はおめでた。ゴビには参加しないが「まさに歩いても楽しめるのが砂漠ランの魅力の1つ。時速3キロでも完走できる。私も全くの素人で、たまたま日本人女性がサハラ・マラソンに出ている写真を見て95年にいきなり挑戦した。最下位から3番だった」。
砂漠は日本人の忍耐特性と相性がいいらしい。特に女性は大活躍。昨年5月のゴビ総合優勝も貝畑和子さん(53=岡山県)だった。
砂漠はよくいう地獄でもない。「普段の生活と全く切り離された時間を生きることがとても新鮮。それによって自分も知らない自分が外側にあふれ出てくる感じがする」そうだ。
あるレースで、道しるべに立てられたピンクの旗が、風に舞い上がる砂のせいで見えなくなった。藤崎さんは無理に追うことをやめ、自分の本能にコースを選択させてみたという。「自分がすでに砂漠に同化していたのか、さらさらと風に流される砂の小川をいつしかたどり、迷うことなくチェックポイントに着いていた。頑張ることをやめた時に活路が開けた」。
砂漠のミステリー。
田中さんも、そんなロマンを大切にする。絵本作家だ。「こんたのおつかい」に続いて、砂漠ランの体験から昨年は「かっぱのかっぺいとおおきなきゅうり」(いずれも徳間書店)を出した。かっぺいが荒野で迷いながらも、次から次へ現れる困難を乗り越えていく物語だ。「自分の何かが、砂漠に出会って1つの形になった感じです」。
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| 砂漠は1人では走れない。日本チームと現地の人々。前列左から貝畑さん、大塚哲さん、藤崎さん、田中さん。後列左から2人目が近藤武さん、右隣が年代別優勝の石原義昭さん(昨年のゴビ・マーチで) | |
砂漠にはそれぞれの表情があり、砂1粒も同じではない。サハラはどこまでも砂丘が続き、ゴビには森や峡谷もある。地球の地肌。人も人格がむき出しになる。それぞれの地肌で走る。砂漠はその「それぞれ」を受け入れて、楽しませてくれる。
悦楽の砂漠。田中さんらは14日に日本を出発、中国西端のカシュガルに向かう。レースは17日スタートだ。
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| 事務局を運営する藤崎さん。システムエンジニアの夫・将士さんとは砂漠ランで知り合った | |
◇問い合わせ レーシング・ザ・プラネット日本事務局(電話)090・6714・3007 http://www.racingtheplanet.com/
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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