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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」
2007年06月12日更新カヌーで帰宅、川は生きていた
うまくいったか、いかぬーか・・・築地から自宅へ!?
江戸川橋の下で航行不能、引き返すことにしたが、驚いたことに美しい緋鯉(ひごい)や50センチを優に超えそうな真鯉が群れを成して初夏の午後を楽しんでいた。神田川は生きていた。東京・築地の日刊スポーツから武蔵野市近くの自宅まで、カヌーで帰ることはできないかと、またばかげたことを思い付いた。神田川をさかのぼってみよう。ゴム製のカヌーを担いで退社した。
波なく、静か
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| 御茶ノ水駅を通過する。初夏の日差しが川面にはじけていた。後方に聖橋と丸ノ内線(亀田正人撮影) | |
「東京行きが参ります。白線から下がってください」。かなた上空から、JR御茶ノ水駅のアナウンスが流れてくる。岸辺は緑だ。でもゆらゆらとカヌーが揺れる。顔を上げて景色を楽しむ余裕はない。
ホームには早くも帰宅を始めた学生やサラリーマンがずらりと並んでいる。「何をやってるんだ。暇なやつがいるもんだ」という目で、おやじの勇姿を追っているに違いない。一方で少しはヒロイックな気分もあるのだが、ここでバランスを崩して水中に没したらどうなるか。海上保安庁のヘリが来るかも知れない。
波もなく、静かな川だ。ところが実際は上げ潮で流れが逆の個所がある。河岸の高い壁のせいか、ビル風のような突風に見舞われることも。平底の運搬船でも来たら、どこへ逃げればいいというのだ。
後方で別の電車の音がし始めた。こもったような音だ。丸ノ内線が地下から姿を現し、神田川の鉄橋をまたいでいくのだろう。懐かしい。丸ノ内線は開通時から池袋~茗荷谷間を通学に利用した。あの真っ赤な車体が「百万都市」の象徴だった。
思わず船首を巡らしてみた。あれ、イメージと違う! 車体はあのころの赤ではなく、とうにシルバーに変わっていた。おやじ、時代に捨てられている。
「どぶ川紀行」
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| 海のような隅田川。臆病風に吹かれた | |
専門誌「カヌーライフ」の連載「日本どぶ川紀行」が人気を呼んでいる。大都市の河川を探訪する企画だ。それがヒントになった。
神田川は全長約24キロ。井の頭池付近は、時折ジョギングもするのでよく知っている。都心を東に流れて隅田川に注いでいる。築地の日刊スポーツ本社から隅田川まで歩いて10分もかからない。最後は歩くにせよ、地図の上では川をさかのぼって「カヌーで帰宅」も不可能ではない。
足踏みポンプで膨らませる簡易カヌーを人から借りた。オールも分割式なので、ヘルメット以外は大きめのバッグに全部入る。通勤にはもってこいだ。
ところが退社していざ川に向かうと、築地のあたりでは隅田川はすでに海の表情。全長240センチの小舟ではいかにも頼りない。しかも右側通行だから対岸に渡らないと上流に向かえない。こぎ出す場所すら見つからず、うろうろと岸辺をさまよった。
けれど河口近くからいったんこぎ始めると、どうして神田川は趣がある。下流では水が重い色をしているが、これは周囲の建物の色が関係しているに違いない。秋葉原の電気街の横を通って聖橋に近づくと、初夏の日差しが川面にはじけて、手入れされた豊かな緑を映し始めた。岸近くには小さな魚の群れを見た。
川は生きていた。
こげば美しい
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| 川そのものは通行自由でも、ゴム風船のようなカヌーでは… | |
「日本どぶ川紀行」のリポーター大内直紀さん(28)に、事前に話を聞いた。
「大都会の内側の川はにおいや色、イメージの点で敬遠される。けれど見慣れたはずの風景が、川の上からだと驚くほど異次元のように新鮮に見える。それを自分だけ占有させてもらうような気がする。忘れ去られた川にこそ味がある。どんな川もこげば美しい」。
高速道路の下に追いやられた個所を通ると、まるで都会のはらわたを見るようだった。捨てられた川は我が身にも少し似ている。けれど上流へ行くほど川は誇りを取り戻していた。
「1つや2つ時代に不遇でも、それが何だ。この流れは永遠なのだ」という叫びが聞こえた。意地を感じた。勇気をもらった。
江戸川橋の下に段差があってその先は水も浅かった。下流へ戻るしかなかったが、畳んだカヌーを背負ってたどると、旧神田上水の早稲田付近はまるで奥多摩の渓流のように水が澄んでいた。行政も川の活性化には積極的だが、地元の人の努力あっての回復だろう。
「神田川を考える会」(www2u.biglobe.ne.jp/~k-kawa)を作って活動を続けてきた西利夫さん(71)もその1人。「単に眺めて美しいだけでなく、自由に川に入って遊べるようになって欲しい。年に数回だが、すでに新宿区や杉並区では子どもたちを川に招き入れ、千代田区では舟に乗せる試みも行っている。庶民が日常的に川と触れ合える日が、私たちの目標です」。
懐に入った・・・
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| 江戸川橋下の鯉。真鯉は50センチ超と見た | |
どぶ川をこぐと発熱する、皮膚がただれると脅されていたが、江戸川橋の横町に銭湯があった。飛び込みだからせっけんもなく「24色のクレパス」もなかったが、心はほのぼのした。
最後は電車で帰った。「カヌーで完全帰宅」はできなかったが、こぎながらごみ拾いも少しした。神田川の懐に入り込んできたような、不思議な感覚がいつまでも体に残った。
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| どぶ川名人の大内直紀 | |
◇どぶ川名人 大内直紀(おおうち・なおき)東京・中野生まれ。東京農大3年の時に多摩川でカヌーを始め、インストラクターをしながら各地の川を探訪。現在はICI石井スポーツでカヌー部門の販売を担当。
「川は原則的に通行自由だが、川の出入り、特に柵(さく)をまたぐようなケースは問題が多い。地元とトラブルを起こさないこと。それと右側通行厳守、航行する船の邪魔にならないよう、いわゆるどぶ川では細心の配慮が必要。マナーと自覚を大切に」。
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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