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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」
2007年07月17日更新おやじの危うい、楽しい夏休み!?ダーット突っ込んだ!!
三国峠越え、伝説の林道をMTBで一気に下った1000メートル
や、対向車! 気が付いた時は遅かった。急ブレーキをかけたら、前輪が砂利混じりのダートでずるっと滑った。間一髪、転落までの距離わずか30センチ。信州の野辺山高原と武州秩父をつなぐ通称中津川林道を安物のMTB(マウンテンバイク)で走った。未舗装の道が20キロ近くも続く豪快な下りだった。オフロード愛好者に親しまれてきた伝説的な林道に、1度は挑戦したかった。おやじの「呼び戻そう! 夏休み」が今年も始まった。
ありゃ、夜間通行禁止
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| 土を蹴り、小石を飛ばして中津川林道を駆け下った(亀田正人撮影) | |
ありゃりゃ。
標高1740メートル、やっと上り終えた三国峠のてっぺんに、妙な看板が立っていた。「夕方5時から朝8時まで夜間通行禁止」。頑丈なゲートがある。5時までに抜けないと山の中に監禁されるのか。遅れたら今夜は孫と風呂に入れない。携帯も通じない。
小海線の信濃川上駅から約25キロ、標高差605メートルの舗装路を2時間半かけて上ってきた。野辺山高原に広がる日本一のレタス畑の真ん中を、汗を垂らして上ってきた。MTBの太いタイヤが恨めしかった。インターネットで8000円で買った鉄製の中古車だから車重も15キロ。ロード型の倍はある。
出発に手間取ったのもまずかった。すでに午後2時半、パンクでもしたらクマに食われる。間に合うか。
峠からの約20キロが中津川林道、正式には秩父市道17号だ。秩父山中、標高差約1000メートルを豪快に駆け下る。若いころ、ここを走った悪友たちが「すごかったぜ」と自慢するのがうらやましくて仕方なかった。しっとした。
ありがたや。舗装化が進む中、ここだけは昔のままが残されている。昼飯もそこそこに、あこがれのダートに突っ込んだ。
リベンジの夏だ。
やっ、対向車がぬっ
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| 夕方5時までか! 三国峠の立て札におやじびびった | |
事前に山岳サイクリングのベテラン近藤明彦さん(48)に注意事項を聞いてきた。「タイヤ圧を下げすぎるとパンクする。体を後に引いてハンドル(腕)の力を抜いて。対向車に注意、何よりキープレフトを」。ふんふん、でもそんなの常識だろうがと、内心、高をくくっていた。失敗だった。
焦り半分、思いのほか下り傾斜がきついのでつい速度が上がったのがもう半分。いい気になって駆け降り始めたら、ヘアピンカーブで対向車がぬっと顔出した。いかん、おやじ右側を走っちょる。道幅約4メートル、左側に戻って擦れ違うにはもうぎりぎりだ。
思わず腕に力が入った。転ぶまいと全身硬直、前輪が砂利に滑り始めた。うわっ、左は谷側だ。左の左は谷底だ。お母さまぁ!
危機はなお迫る。健康には気を使っている方だ。酸性体質は良くないと聞き、乾電池もアルカリ型に替えている。それでもブレーキを握りっぱなしの腕がはれてきた。自転車が勝手に速くなるが力が入らない。ボーナスまであと1週間、ここで死んだらばかを見る。
全身が悪路にがたがた揺すられる。手がしびれ、視界まで実家のテレビのように二重三重。「目ぶれ防止」の装置はないのか。
おぉ「国越え」の冒険
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| 起点は無人の信濃川上駅。「陸海空、自衛官募集」のポスターが旅情? を誘った | |
所々道がえぐれて、とがった落石が転がっている。トンネルは真っ暗で岩がむき出しだ。石に乗り上げてペダルから足が外れた。恐怖の下り、荒々しい道だ。 でも楽しい。こういう夏休みがやりたかったのだ。
信州から武州へ。自転車で国を越えること自体、おやじ世代にはとてつもない冒険に思えて仕方ない。国家老の悪巧みを江戸表に知らせるために、裏街道を抜けていく隠密同心のような興奮もある。
峠から約10キロ、一休みした辺りから中津川の谷は深まったが、道の傾斜は緩やかになった。太いタイヤを効かせてぐいぐい下った。乗用車が「この道 制限速度15キロ」を厳守していた。オービスはない、一気に抜いた。
温泉場の手前で舗装に変わった。そこで休んだ。跳びはねたせいで尻が痛む。テープで車体に止めていた工具がなくなっていた。けれど「国境(くにざかい)の峠を越えてきた」旅の実感に、おやじは酔った。
午後4時を過ぎたが制限時間には間に合った。後で役場に問い合わせたら「別にゲートは締めませんよ」。なんでえ。早合点だったか。秩父鉄道三峰口までは30キロ約1時間だった。
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| トンネルは岩がむき出し、タイヤが滑って転倒目前 | |
土の上を走るのは非能率だが、懐かしさがある。遠出しなくとも、鎌倉辺りにも静かな地道(じみち)が残されている。親子の夏休み体験にも最適だ。
西武秩父で特急レッドアローに乗り換えた。帰宅ラッシュの池袋駅、自転車担いでふらふら歩くと人にぶつかる。カバーはかけたが自転車に当たれば向こうは痛かろう。「すみません」を連発したが、偉そうおやじにはわざとぶつけた。快感だったが、やはりMTBは肩に重かった。
よし。次は最軽量、競輪用のレース車に挑戦しよう。バンクの風になってかっさいを浴びるのだ。
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| こういう夏休みがやりたかったのだ! | |
◇三国峠 実際に3県と接しているのは少し北の三国山。峠は群馬とは接しない。関東では群馬県みなかみ町、山梨県上野原市、山梨県山中湖村にも同名の峠。なおウィキペディアなどによると中津川も岐阜県の木曽川水系をはじめ少なくとも全国に8つある。
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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