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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」
2007年08月07日更新掛け声合わせ「ハップ、ホー!」
アウトリガーカヌー操り ♪金色に輝く あの夏へ オヤジ、飛び込んだ!
「ハップ、ホー」。掛け声が掛かると、全員一斉にパドルを持ち替えて反対側をこぐ。息が合うと、ぐぐんと艇が前に出る。波を切り裂くように進む。子どもたちの目が輝いている。小・中学生を対象とした「湘南海のスポーツキャンプ」(神奈川・江の島周辺)に飛び入り参加して、ハワイ生まれの6人乗り「アウトリガーカヌー」に初めて乗った。50歳近い年の差を超えて、おやじも♪金色に輝く あの懐かしい夏に飛び込んだ。
小中学生に交じり
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| ♪金色に輝く こんなはじける夏が欲しかった!♪ 前から2人目、子どもたちと太平洋をこいだ(撮影遠藤大哉=NPOバディ冒険団) | |
「おじさん、違う! 逆でこいでるよ」。後ろでこいでいる小学校6年生が、真剣な声でとがめた。「声を出して」と偉そうに指図していたら、自分がパドル(オール)の表と裏を間違えていた。「しまった」。
皆に笑われた。
皆といっても最後尾のコーチ岩田季美子秀美さん(27)以外は小・中学生だ。50歳も年が離れているが、スポーツや冒険に年は関係ない。子どもに注意されてむっとするのは「ほお、そのお年で」と褒められたがるよりもっと醜い。
笑われるに任せて懸命にこいだ。片側10回ずつこいでから「ハップ、ホー(こげ!)」の合図で反対側をこぐ。パドルを水に差すタイミングが推進力の鍵になる。合図を待っていると微妙にずれる。合わせるのは意外に難しい。
「湘南海のスポーツキャンプ」(7月27~31日、代表松本富士也)は今年で4回目。誰でも乗れるアクセスディンギー(ヨット)の体験試乗をNPOセイラビリティ江ノ島(http://sailability-enoshima.jp/index.php)が提供するなど、地元4団体の支援で運営されている。そこに飛び込んだ。アウトリガープログラムを半日体験した。
幅50センチ、時速20キロ
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| 左側にアマと呼ばれる浮き子が付いている | |
乗船直後はしらけている子もいた。パドルで水をかく単純動作だが、うまく合わない。6つのパドルが別々に水をはね散らかしている。ところが江の島沖、太平洋の黒いうねりを直接受け始めると皆真顔になった。不気味な揺れだ。怖い。怖いから真剣になる。真剣になった時の子どもの集中力は純度が高い。にわかに一体になった。
後ろから押されたように艇がぐぐっと前に出た。
速い。全長は13メートルに達するが幅はわずか50センチ。波を背後に受けると時速20キロを軽く超えた。左横に付いている小舟型のアマ(浮き子)が、鋭く波を切り裂いている。まるでイルカと並走しているようだ。興奮する。
もはや合わせているのではない。6つの本能が1つの気迫、1つの筋塊となって動いている。苦しくなるが、タイミングがぴたりと合った時の快感が、代え難い報酬として6人に分配される。奇妙な合体感覚だ。
海外でも活躍中のオーシャンアスリート小林俊さん(27)が主宰する「湘南アウトリガーカヌークラブ」(会員50人)提供の3艇に、代わる代わる乗った。
自然に合わせ針路
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| ハップ、ホー! ぴたり息が合った時の快感は最高だ | |
小林さん「抵抗が少なく船体が長い分、想像以上に速度が上がる。ドラゴンボートなどに比べると格段に俊敏で、スポーツ性も高い。ただし全員で右側をこいでいる時などに左から不用意な波を受ければ転覆することも(笑い)あるが、艇は沈まないからつかまれば大丈夫。見知らぬ同士が海上では肩書抜きで力を合わせる痛快さには、大人も子どももない」。
ちなみに同クラブでは9月に本場ハワイの長距離レース「クイーン・リリュウカラニ」(約30キロ)に2艇で遠征するが、8月下旬には江の島から大島へ渡る計画もあるという。
その時、水中で足が岩にぶつかった。頭から転んでどどーんと流された。調子に乗ると世の中怖い。子どもが大人に成長する瞬間だ。背中のリュックサックが浮輪になって沈みはしないが、体勢が不自然だ。必死に足を動かすが、文字通り浮足立って底を探れない。
直線距離なら30キロ足らず。黒潮の反流が湘南海岸の近くを西へ流れているので、熱海方向に向かってから反転する予定。「それも当日の潮や風次第。人間の理屈ではなく、海の自然に合わせて針路を取るのがアウトリガーの航法」。
ロマンあふれる冒険だ。
ハワイなどのポリネシアに普及する前は東南アジア海域の乗り物だった。どこかノスタルジーを感じるのはそのせいか。今も両側に丸太を付けた舟で漁を営む人たちがいるそうだ。
はじける夏あった
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| 沖で子どもたちが飛び込んだ | |
午後の日差しが斜めに差し込んで、波に反射していた。♪金色に輝く ザ・ピーナッツの「恋のバカンス」がヒットしたのは東京五輪の前の年だったっけ。懐かしい歌が耳の中でこだまする。あのころの夏は歯に挟まった焼きトウモロコシを手でほじり、ビニールベッドに腹ばいになり、腹を焼くのがせいぜいだった。海辺の現実はいつも男同士で退屈だった。
でも夏は待っていてくれた。こういう「はじける夏」が欲しかったのだ。
江の島の西浦漁港を起点に、スタッフを含めた約40人が代わる代わる沖へ出た。西浜サーフライフセービングクラブのスタッフが子どもたちを飛び込ませた。うねりのきつい個所だ。
東京・福生から参加したサッカーチームFCGONAの篠田直コーチ(31)は「いつもと全く異なる体験がいい刺激になった。あんな所で飛び込めと言われて最初は殺されるかと思ったが、頑張ったらできた、楽しかったと、皆が大喜びだった」と話していた。
台風の影響はない日だったが、水泳は苦手。とぼけて艇にとどまると「泳げないのね」。「監視役だよ」と言うと「あ、なんだ」。でも信じていないのが顔で分かった。
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| 足が着かない! 泳ぎが苦手なおやじも飛び込んだ | |
仕方なく飛び込んだ。潮を飲んだ。生の黒潮だ。おやじの夏は少ししょっぱい夏である。
◆小林俊(こばやし・しゅん) 東海大時代にライフセービングを通じてさまざまな海の競技と出合い、プロのオーシャンアスリートとして活躍。5月のハワイ「モロカイ世界選手権」ではサーフスキーで20位、総合でも日本人最高位の27位に入賞した。湘南アウトリガーカヌークラブ(http://www.shonanoutrigger.com/)マネジャー。
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、60歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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