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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」
2007年10月09日更新エコに目覚め、拾いに行った山のごみ
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| 七ツ石山の山頂で、北斜面の残りごみを拾った。ともかく目的達成、いい気持ちだった |
汚す一方の悪役から「環境保護」を叫ぶ時代の主役へと、一気にここで成り上がろう。ふと思い付いて、東京・奥多摩の七ツ石山(1757メートル)へ登山道のごみ拾いに行った。清掃登山の単独チャレンジだ。想定外の現実にほんろうされながらも約7キロのごみを収拾。ポリ袋に分けてなんとか持ち帰ってきた。途端に家人にどやされた。「これ、どこに捨てるの!」。こっちが捨てられそうな雰囲気だった。
登山者は捨てず
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| 登山口、鴨沢の停留所前にも看板があった |
霧雨が秋の山をぬらしている。もやが登山道にも立ち込めて、世界が真っ白だ。こんな時は音もぬれるのか、鳥の声さえめったに響かない。山が静けさの中に身を潜めている。こちらも思わず足音を忍ばせる。
忍ばせながら、足元に目を凝らす。ごみはないかと探し求める。けれどごみはない。時折、のどあめの小袋やチョコの包み紙の端切れが露にぬれてきららと光る。それもごくまれで、晴天なら気付くまい。
がっかりだ。奥多摩駅からバスで鴨沢、そこから七ツ石山へはまっすぐ上って3時間だが、登山道やその脇1メートル辺りにはごみがない。マナーを守ろうと呼び掛ける「指導的立場」を勝ち取ろうと出掛けてきたのに、無駄足になる。
言われた通りだ。
事前に東京都山岳連盟自然保護委員の天野淳司さん(70)から「すでに自然を守るだけの意識から脱却し、登山を通して人が自然に対して何ができるかを考え、行動を起こす時代に入っている。御岳や高尾山など一般の人も集まる場所は別だが、物を捨ててくるような登山者はもういない」と聞いていた。
頂上の北斜面に
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| 山頂のごみ全部とはいかなかったが、大きな袋いっぱいに詰めた |
もっともがけ下や廃屋跡の空き地には陶器のかけらやはがれた靴底のゴム、ガンダムのおもちゃなどがまだ残っている。真剣になると「何1つ残すものか」と、意地が出てくる。拾える物は全部ポリ袋に入れた。
それがけっこう重かった。初秋の台風の被害は思いのほか大きく、関係者が倒木を切りのけて道を確保した個所が幾つもあった。身をかがめては通り抜けた。途中ではっと気が付いた。何で頂上まで運ぶのだ。下りに拾えば楽だったのだ。頭が風化し始めている。
景色の開けた休憩所にそこまでの2袋分重量約5キロを置いて上った。
薄緑のモミジが、露に光っている。快晴の秋山もいいが、1人行く「白い秋」もまた格別だ。頂上に着いた。ここから東京の最高峰、雲取山へは尾根伝いに小1時間。東の石尾根を下りれば奥多摩駅に出る。広場はよく整備され、もちろんごみなど1つもなかった。
いや、なくもなかった。
ササが伸びた北斜面に1歩踏み込むと「な、なんだ、これは」。たじろぐほどそこは汚い。さびた空き缶にウイスキーのポケット瓶。それまでとは異なる時空が広がっていた。
埋めた物が露出
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| ごみとはいえ、懐かしさが込み上げた |
「昔穴を掘って埋めた物が、シカなどがササの葉を食べるなどしたために雨で表土が流されて露出し始めたのです」。帰りに奥多摩自然公園管理センターへ立ち寄ると、都レンジャー(自然保護員)の北山郁人さん(33)が教えてくれた。
雲取山、川苔山とこの七ツ石の山頂部分が特にひどいそうだ。往年の登山者が当時は最良のマナーだった「ごみは穴を掘って埋める」を励行した。昨年この3個所を徹底清掃、土のう袋に計100袋以上のごみを下ろしたそうだが、まだまだ残っているのが現状だ。
確かにごみはみな古く、ある意味懐かしい。マニアが喜びそうなコーラのびん、サンマのかば焼きやコンビーフやみかんの空き缶。
戦後、どの家庭でもみかんの缶詰はぜいたく品だった。風邪をひいて高熱を出した時だけ食べさせてもらえた。その後、登山ブームが起きると山でのサプリ? として重宝がられ、頂上で少し魚臭い缶切りでミカン缶を開けるのは、庶民派のささやかな喜びだった。
ごみの山はタイムカプセル。ぼろぼろ泣けてきた。
立派と褒められ
目に付く物だけ離れた場所に寄せ集めた。全部は無理だ。びんも無理だ。空き缶を半分ほど大きなポリ袋に積めた。手ぬぐいを入れてとがった先が袋を破かないようにした。それを背負って下りた。途中で往路に置いてきた物と合体した。10キロを超えた。
荷を解き直して土や水分をはじき出し、押しつぶしたら計7キロ前後。それでも筋肉増強バッグのごとくにこたえたが、頑張った。重さが心地よかった。
帰りの電車にごみ袋を持ち込むと、不審な目で見られた。家では不純な動機を見透かされていた。「何いい気になって。だいたいなんで他人のごみまでうちで出すの」と、しかられた。
でも北山さんに電話で報告すると「ご立派」と褒められた。レンジャーの仕事は大変ですねとねぎらうと「山には登山者だけでなく、土地の管理者や所有者もいる。生活する人もいる。ごみ収集車の来ない山村では今もごみは埋めている。それぞれの立場をまず理解するのが仕事なんです」。
この人、自然も愛しているが、その前にまず人間をとても愛しているんだな。
応募資格あり?
「これを機会にレンジャーに応募したら? 60歳まで資格ありですよ」。北山さんに誘われた。
「…」。資格はすでになかったのだ。
ボトルを持って走った桜井さんに刺激
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| 桜井教美さん |
<実は…>この手の善行は海でのビーチクリーンを除けば生涯無縁だったが、9月に行われた100キロマラソン世界大会(オランダ)の話に刺激を受けたのが直接の動機になった。
日本は初めて男女とも団体優勝したが、世界歴代2位の7時間0分28秒で初優勝した櫻井教美さん(36)は、レースではポイ捨てが当然なのに飲み終わったドリンクのボトルを捨てず、次の給水までずっと持って走っていたそうだ。今年も20日に行われる日本山岳耐久レース(はせつね杯)でも連勝中の、いかにも彼女らしい正義感に感動した。
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【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥
- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、61歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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