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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」
2007年10月16日更新標高2100メートル、御嶽山・草木谷へ源泉探検
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| いい湯だな! 実は負け惜しみの冷泉である。水温5度、尻の穴が凍傷になりそうだった(和合正撮影) |
紅葉し始めた尾根筋が、秋の日に光のダンスを踊っている。足を長く伸ばしてくつろいだ。飛騨の奥深く、名峰御嶽山の草木谷に出来上がった自分だけの風呂。標高2100メートル、手掘りとしては日本最高所だろう。先週末、温泉ブームに遅れまいと、岐阜県下呂市へ源泉探検に出掛けた。ごらんの通りに最後はVサインで引き揚げた。実は水温5度、負け惜しみの「冷泉」とは誰も思うまい。翌朝、おやじは痔(じ)になった。
お尻で泣いた
せせらぎが秋の歌を奏でている。谷を詰めれば御嶽山の摩利支天山、よほどの山の熟練者でない限りこんな奥を訪れる者はほかにない。極楽気分だ。
ゆっくりと腰を沈めた。
そういう顔をして、地元の写真家・和合正さん(74)にシャッターを押してもらった。極楽どころか、本当は地獄だった。
岩や石で囲い込んだ湯の深さはせいぜい20センチ。いや湯ですらなかった。流れ出してくる辺りの岩は真っ白になっているし、温泉特有のにおいが立ち込めている。薬用効果はあるに違いないが、目指した「熱い源泉」には程遠かった。
震えながら尻の穴だけ冷水に浸した。顔で笑ってお尻で泣いた。でも、負け犬の顔はしたくない。手掘りのはずが「手ぶら」ではしゃれにならない。
高所ほど効果
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| 岩を越え、がけをよじて、荒れた草木谷をさかのぼった |
若い人にも温泉登山がブームだと聞くと「お前ら癒やしが必要なほど働いてるのか」と、年のせいかつい意地悪になるのだが、酸素が薄い高所ほど温泉の効果を吸収しやすいという科学記事も雑誌で読んだ。
流行を追うのは嫌いだが流行に先駆けるのは大好きだ。こう見えて、おやじも栃木の栗山村で温泉を掘ったこともあるし、通年営業の露天風呂としては日本最高所2150メートルの本沢温泉まで、真冬にスノーシューで出掛けたこともある。
御嶽山中腹の濁河温泉から入った谷に温泉が出るという話を聞いた。滝の写真家、和合さんに話を持ち掛けた。「手掘りの露天風呂では日本最高所になるかもしれん」。高いほど効果があるのだ、挑戦しよう。
スコップを担いだ風体を怪しまれながら小坂口の登山道をたどり、仙人橋から草木谷へ入った。濁河川上流を何度も渡り返し、倒木をくぐり、巨大な岩石を乗り越えて進んだ。城壁のような堰堤(えんてい)が何度も行く手に現れた。それを乗り越える。勘で進路を探す。汗で目がかすんだ。
和合さんにそう言うと「特効薬がある」と、ブルーベリーのエキスをザックから取り出した。本当だ、視界がしゃきっとした。ただしアルコール漬けである。果実酒、いや密造酒ではないか? 足元がふらつき始めた。たいした探検隊だ。
源泉に近づく
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| 珍しいシラタマノキの実が鈴なりだった |
上流から流れてきたのか、珍しい亜高山植物が河原に群生していた。シラタマノキの柔らかな実が鈴なりになっていた。1粒だけ試食した。水っぽくて、かすかに甘い味がした。
7つ目の堰堤を越えると、左のがけが切り立っていた。横幅100メートル近くも岩肌がむき出しになっている。全面に伏流水が流れ落ちている。美しい水の壁だ。緑や茶、赤と、しま模様が奇っ怪で面白い。
御嶽山が最初の火山活動をした時、標高約2000メートルに広大なカルデラができたそうだ。いわば大きな岩の鍋。この層が水を通さないため、次の活動で高く盛り上がった峰々に染み込んだ水が伏流水となって流れ出るという。元教師の和合さんは博識だ。
ここらがちょうど標高2000メートルで、出てくる伏流水は火山特有の成分を含んでいるに違いない。5番目の堰堤には強いにおいが立ち込め、コンクリートの壁とその下流域が乳白色に染まっていた。石こうの成分、硫酸カルシウムだろう。水は透明で冷たいが、源泉に近づいたのだ。
ロープ忘れた
ところが「おい、ロープ出せや、車に置いてきた」「おれも忘れた」。歩き始めて2時間弱。なめ滝状になった急流を回り込むため、右のがけに取り付いた後で顔を見合わせた。斜度40度以上の急な壁だが、崩れ落ちてきた土砂が岩を覆って足場がない。強引に突破はできるが下りは滑落の可能性5割強。その時、装備不完全に気が付いた。
高さ20メートルのほぼ3分の2を上り終えていた。上りきってもその先がどうなのか分からない。下りよう、でも縄がない。がけの中腹で立ち往生だ。スコップを何とか背中から外し、それで足場を固めては下まで下りた。互いの肩をたたき合って生還を喜んだ。
自分のことより相方がけがをするのが怖かった。友情ではない。相方がけがをしたら背負って帰ることになる。そんな面倒だけは避けたかったのだ。ザイルで結ばれない男同士のきすなはただの利己主義だった。
秋の午後が加速して、気が付いたら谷の半分以上が日陰になっていた。予想地点まで後わずかと確信したが「戻るか」「戻ろう」。
手ぶらでは帰れないから強引に「冷泉」を谷川の横に囲った。一緒に入ろうと誘ったが、飛騨の人は慎み深い。和合さんは「おらはええでよ」と遠慮した。
やっぱり山は装備が大事、今回は手抜かった。よし、次はウエットスーツと痔の軟こうを持ってこよう。
和後温泉と名付けよう!
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| 和合さんが2日後に再挑戦して本物の源泉を突き止め、写真を送ってくれた |
<発見!>2日後の10月9日、帰京したおやじに代わって和合さんが単独でもう1度草木谷に入り、第1次探検隊が中断した個所から約150メートル先、標高2180メートル付近に予想通り45度前後の温泉噴出口を発見。「あの日は引き返して正解だった。2人の名をとって和後温泉と名付けよう」と、写真を送ってくれた。開業したら和合さんが社長、おやじが女湯専門の番台に座る約束だ。
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【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥
- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、61歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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