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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」

2007年10月23日更新

遠泳大会でメガホン手に激励追尾


頑張れ、あと1周だ! 公私混同、声を限りに同僚を声援した(吉村純撮影)
頑張れ、あと1周だ! 公私混同、声を限りに同僚を声援した(吉村純撮影)

 男だ、いけ! 思わず絶叫した。荒い息で舟べりにつかまっていた岡田浩之記者(42)が、それに応えるかのように最後の1000メートルに向けて泳ぎだした。14日に神奈川県葉山で行われた遠泳大会で、カヌーによる「末尾監視役」を引き受けた。くしくも3000メートルクラスのどん尻を泳いだのが職場の同僚、公私を忘れ、一心同体で追尾した。感動のゴール。至福の笑顔に、むらむらと悔しさが込み上げてきた。



1時間7分

 「頑張れえ、あと少し!」。波打ち際から仲間らしい一群から歓声が上がる。岡田記者はへとへとだが、スタート直後のコチコチ泳ぎとはまるで別人だ。威風堂々、最後の50メートルを泳ぎきった。

 横に、後ろにとカヌーを付けながら、必死にげきを飛ばしてきた。途中から自分が泳いでいるような気になった。うれしかった。「やった、やったぞ」。

 一昨年は500メートルクラスでリタイアしたはずだが、最下位とはいえ今回は3000メートルを1時間7分だ。以前は「泳ぎは苦手」同士だったのに「こそ練」したに違いない。こっちは平泳ぎで500メートルがやっとのままなのに、いつの間にか水をあけられていた。

 考えてみるとその点は面白くない。うれしそうに浜に駆け上がる後を追ったら足がパドルに引っ掛かり、醜くこけた。砂まみれで、なんか惨めだ。祝福の嵐の中でやつは英雄、おれはただの裏方だ。一心同体感がゴールとともに分離し始める。にわかボランティアの心理は複雑である。



口は達者だ

500メートルクラスを初完泳した成美さん。「ありがとう」におやじ感激
500メートルクラスを初完泳した成美さん。「ありがとう」におやじ感激

 正月の「谷川真理ハーフマラソン」では自転車での先導役を務めた。今度は「泳げなくてもカヌーならできるでしょう」と湘南オーシャンスイム・シリーズ事務局から末尾泳者の監視役を頼まれた。交通費も自前? ま、いいか。

 午前10時に最初の500メートルクラスがスタートした。小学3年の宮田成美さん(9歳)が、浜から数十メートルであえぎ始め、集団から落ちた。ここが海の鬼門だ。ベテランでも出だしは苦しい。これが普通と分かれば何でもないが、初心者ほど不安が先走りしてピッチを上げる。一層乳酸がたまるのだ。

 おやじ、泳ぎは下手でも口は達者だ。「平泳ぎで落ち着こう。大きく、ゆっくり呼吸して」。少しは効果があったらしい。少女はやがてペースを取り戻した。

 ゴールしてから「海の遠泳は生まれて初。自信はあったけど、あの時はおぼれるかと思った。でも後は楽に泳げた」。兄の隼人くん(12)は海のベテランだがこの日は風邪で欠場、単独挑戦だった。「ありがとう」の笑顔がかわいかった。最高のボーナスだった。



3回も追突

気温20度水温21・5度。37人が葉山公園前をスタートした。11月11日にも同所でクリニック遠泳が行われる(事務局電話:090・5500・0843)
気温20度水温21・5度。37人が葉山公園前をスタートした。11月11日にも同所でクリニック遠泳が行われる(事務局電話:090・5500・0843)

 午前11時。今度は3000、5000の混合クラスだ。「ありゃ、岡田じゃないか」「へへへ」「500じゃないのか」「リタイア覚悟でこっちに変えた」。生意気にも上級者クラスに挑むというのだ。いつも物静か、声を荒らげたことは1度もないが、本欄のレイアウトも担当し、職人かたぎの仕上げは抜群だ。こういうやつが一番怖い。

 シングルハンディは駅のホームで素振りをしない。強いボクサーは投げ技を使わない。真の冒険家は毎週コラムを書いたりしない。

 どっと集団がスタートすると、たちまち最後尾になった。自然にマンツーマンの担当となる。成美さん同様、100メートル付近であっぷあっぷし始めた。これでは1周1000メートルも泳げまいと思ったが「リラックス、苦しいのはここだけだっ」。

 本当にそうだった。今にも沈(ちん)しそうに乱れたクロールがリズムを整え、時折交える平泳ぎが伸び伸びと大きくなっていく。

 追尾は決して易しくない。潮と風の影響でカヌーはすぐに流される。折り返してくる先行泳者や抜いていく人、不意の不調者にも注意しながら、なおかつ担当する最終泳者を励ましてこぐ。右手にメガホン、左手でパドル。ひざにパドルを押し付けて際どく操るが、3回も追突した。



怒りがバネ

 遠泳大会では休憩自由。2周したらカヌーにつかまりにきた。「やめるか」と聞いたら何も答えず、荒い息で何か考えている。やおら「話にならなきゃしょうがないからな」と、怒ったように言い捨てて沖のブイへ泳ぎ始めた。実はスタート前「今日は体験記を書くんだ。リタイアじゃあ話が半端になるから、末尾は泳ぐなよ」とプレッシャーをかけたのだった。気に食わなかったらしい。

 でも、その怒りもきっとバネになったはず。3周目は驚くほど泳ぎがスムーズだった。「完泳したら一面トップの大ニュースだ。社長賞だ」。祈るように応援し、泳者も応えた。

 ゴール後30分。着替えを済ませてから岡田がきた。「1人じゃ、とても無理だったよ」。ポツリ。それだけだった。そういうやつだ、それで十分だ。そのひと言で悔しさは消えた。

 男同士の友情は美しい。

 次は先導役を担当しよう。きゃつめを無理に引っ張って、途中でつぶすのだ。



皆に支えられた完泳

ゴールの感動に、少しずつ悔しさが
ゴールの感動に、少しずつ悔しさが

 岡田記者の感想 最初の所で慌てなかったのが勝因。「大きく、ゆっくり」というおやじのメガホンに救われた。それと仲間の声援、「プールで1500メートル泳いでいるから絶対大丈夫」というコーチの励まし。皆に支えられた完泳だった。ただ2周した時、誰も止めてくれなかったのは大誤算。3周目もいくしかなかった(水泳歴4年、横浜市綱島の「ウォーターメイツ スイムクラブ」での練習は週1、2回)。



松崎さんが世界最長82キロ遠泳

松崎裕子さん
松崎裕子さん

 米国フロリダ州オーランド在住のマラソンスイマー松崎裕子さん(45)が12日午後6時から近くの湖で遠泳記録に挑戦、14日午前0時までに82キロを泳ぎ、このカテゴリーの従来の最長記録80・2キロを更新した。昨年秋、おやじがカヌーで付き添って西湖の横断遠泳に挑戦した。「あれがいい経験になった」と、本人から感謝のメールが届いた。



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プロフィル
後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、61歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
 本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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