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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」
2008年01月14日更新谷川真理ハーフマラソンで先導体験
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折り返した途端に、強烈な向かい風がきて、思わずよろめきかけました。ロードスポーツ車のハンドルの下側を握って、まるで競輪選手かツールドフランスのゴール勝負の選手のように背中を丸めたけれど、断続的に吹き付けるすごい風に押し戻されそう。本来は一定ペースで走らなくてはいけない先導役が、恥ずかしくもペースダウン。いやあ、大変でした。
13日、東京・荒川河川敷の公式コース で、恒例の「谷川真理ハーフマラソン」が行われ、約1万人の参加者で盛り上がりました。
昨年に続いて「女子の部の自転車先導」を依頼され、名誉なことだと引き受けました。
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自転車で先頭のランナーの前を走るのですが、前方の障害物を確認したり(川沿いの道とはいえ公道なので)散歩している人に端に寄ってもらうよう声をかけたり。けっこう忙しいのです。
持っているロードレース用の自転車は手作り約3万円の(古いタイプの)12段ギアですが--谷川真理ハーフマラソン最近のは18~20段が普通--先導に備えてミラーをつけたりストップウオッチを装着して準備していきましたが、あいにくの北西風。
「地雷ではなく花をください」とサブテーマにしたこの大会は今年が9回目。マスコミなどの大きなスポンサーがついた大会ではないのですが、地元北区や難民を助ける会などの支援もあって、「手作りの、市民のためのエンジョイ・マラソン」としてすっかり定着しました。
スタート地点で一口インタビューを受けるなど、私も晴れがましい思いをしましたが、威張った役員が指図するイベントではなく、参加者みんなが楽しく盛り上げるのが趣旨だけに、なごやかな雰囲気。
ところが午前10時、いざスタートとなれば出場者はみな真剣。スタートラインより数メートル前からこぎ始めましたが、あっという間にトップの数人に追い越され、あわててダッシュする始末。
行きは追い風になるため、自転車は特に楽ちんで、こがなくてもすいすい走るほどでした。けれどこがないと進路がぶれて、ちゃんと先導できません。仕方なく、こぎながら右手で舞えブレーキを少しかけ続けて走りました。数キロで右肩が痛くなりましたが、ランナーの苦しさを考えれば、泣き言はいえません。
途中、ボランティアでコース沿いに立ってくれている生徒さんや北区陸上競技協会の人たちに「ご苦労さま」と声をかけながら走りました。一人一人の支援が、大きな力になって、大会も成長していく。それが実感できました。
レースは、06年北海道マラソンで優勝、今度の名古屋国際女子マラソンで北京五輪の代表を狙っている吉田香織さんがたちまち独走。追い風で調子に乗ると帰りが怖いのですが、吉田さんは全くそんなことを気にもせず、ハイペースでがんがん飛ばします。自転車のメーターで時速19キロをずっとキープ。すごいランナーです。
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折り返して逆風になりましたが、吉田さんはまるで挑むようにこれに向かい、へろへろしている私に急接近。「おじさん、がんばって」と言わんばかりにダンダン、ダンダンと力強い足音で走り続けます。気が付いたら2位とは5分以上の差、脇目には伴走コーチのように見えたかもしれません。
かっこいいかも、、。
私がもっと上手なら、風よけになって走ったかもしれませんが、これをやると違反です。そっと風上側にコースをとって、少しでも風を止めてあげたいと思いつつ、ぐっとこらえて距離をあけて走りましたが、吉田さんは向かい風に実に強くて、やっぱり風に押し戻されそうになりながらもフォームもピッチも変えずに、私など無視して駆け抜けました。
向かい風に強い人って、レースでも人生でも大好きです。
吉田さんは陸上競技のキャリアでも、向かい風に強い人です。北海道マラソンで勝ったときの日刊スポーツのメモ記事を参照すると
◇生まれ 1981年(昭56)8月4日、埼玉県坂戸市生まれ。
◇きっかけ 坂戸泉中で入部したソフトボール部が廃部になり、足の速さを見込まれ陸上部に転向した。
◇ジュニア実績 川越女子高で本格的に中長距離を始め、高3の国体で1500メートル2位、3000メートル5位。アジア・ジュニアクロカン優勝、世界ジュニアクロカンでは13位。
◇実業団 高校卒業後に積水化学に入社。監督だった小出氏の退社を機に自身もやめて、03年春に資生堂入社。05年の東日本実業団女子対抗で4区の区間賞。
◇趣味 ピアノ
◇体格 154センチ、40キロ。
その後もいろいろなことがあって川越監督らと共に名門チームを離れ、「セカンドウインドAC」というプライベート・チームのエース格の1人として頑張ってます。どんな環境でも自分の力を出し切る人です。
何があってもくじけない。
そんな生き方が、走りにも出ていました。
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本当に苦しくなると、時々「ハッ、ハッ」と声が出ます。不謹慎だけど、なんだかとても色っぽい。
逆風を一気に駆け抜けて1時間15分でゴール。10分後にスタートした男子のトップよりも先にゴールに到着し、「総合優勝」の栄冠も勝ち取りました。
すごいランナーです。
北京五輪に限らず、これからの健走を応援したいです。
私は鼻水をたらしながら、ゴール直前で脇にそれ、大役をほっと終えました。
ところで、男子の方はMTB(マウンテンバイク)のベテランプロ、山口孝徳さんが先導しました。
山口さんはアジア・チャンピオンにもなったスター選手ですがとても親しみやすく、毎年谷川真理ハーフマラソンを手伝っています。
私の自転車の師匠でもあります。
山口さんは九州出身ですが「練習環境がいいので」と長野県上田に住んでいます。セカンドウインドACが近くの菅平で合宿することもあるので、優勝した吉田さんとは顔なじみでした。選手同士が、互いにもがき、苦しみながら練習している過程で知り合い、互いの健闘を祈るって、とてもすてきなことだと思います。
山口さんは自動車レースやラリーにも詳しく、メカにも強いので、このほどスバル自動車と共同で全く新しいコンセプトのMTBを企画開発したそうです。先週の自動車ショー「東京オートサロン」でその試作車(プロトタイプ)が発表されたばかりですが、自転車界ではちょっとした嵐になっています。
山口さんはそれに乗って先導しました。
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一般市販の際には「内装8段」変則という市街地でも楽しめるモデルも用意されるらしく、今後が楽しみです。重量は10キロ台で、MTBとしては画期的に軽量。でも「乗せて」と頼んでも「試作車だから」と断られました。
多分、いろいろな新しい仕掛けがあって、まだ秘密なのでしょう。
自動車メーカーのロゴの入ったMTBはよくスーパーなどで安売りされてますが、それは単なるマークだけ。今回は「蓄積されたものつくりのノウハウを活かす」趣旨で、スバルが本腰を入れてSUBARU
XBフレームというクロームモリブデン鋼のフレームを開発したものです。
これからはこういう「メーカーの手作り」発想的なさまざまな製品が、さまざまなジャンルで新しい「日本製」をアピールするかもしれません。
期待は、大。
きっとどんな向かい風にも負けない、タフで楽しいMTBになるでしょう。
泣き言を言わないタフさって、大事ですよね。「楽しむ」ためには。
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- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、61歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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