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後藤新弥の「スポーツ&アドベンチャー」
2008年01月23日更新カヌー五輪代表内定・竹下&コーチで自身も最終予選目指す安藤
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| 流れの中の岩に飛び移りって写真を撮った。ストロボの光が消えると、激流はまた闇に包まれる。影のように竹下選手が飛び去った(長谷川文撮影) |
多摩川上流、青梅線御岳の駅を降りた。すでに日が暮れて、あたりは真っ暗闇だ。その暗闇の川を、何か大きな生き物がうねるように泳いでいる。スラローム競技のカヤックだ。北京五輪代表内定の竹下百合子(19=早大)と、コーチ役で自身も5月の最終予選を目指している安藤太郎(30=ICI石井スポーツ)の2選手だ。明かりがなくても支援が薄くても、くじけることなく週3回、自分たち独自の夜間練習を続けている。
暗黒世界を疾走
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| 竹下選手(左)と安藤選手 |
川の数カ所にロープが張られ、スラローム用のポールがつるされている。闇に慣れないとそれすら見えない。岩や瀬のありさまがつかめない。緊迫感がある。
その暗黒世界を2つのカヌーが放たれた矢のように疾走し、反転し、ポールの間を切り返し、また飛び去っていく。下流に達するとエディと呼ばれる岸近くのよどみを使って、100メートルほど上流のスタート地点にこぎ上がっていく。
「こいでないと寒いけど、慣れている川なので別に夜でも怖くはないんです」。父浩太さん(52)が地元青梅市のカヌー指導者。小学生時代から競技に親しんできただけに、竹下選手は平然としている。
「何も闇の中で練習したいわけではない」と安藤選手も笑う。「彼女は大学、僕も仕事があるし、2人とも国立スポーツ研究所(東京・西が丘)に通って筋トレをしているので、どうしても夜しか一緒に練習できない。でも条件なんて初めから悪い。その中で工夫するのがスポーツですよ」。
気温は0度近いがウエットスーツも手袋も使わない。こぎ寄せてきた2人の体からぽっぽと湯気が立つ。
実際には多くの五輪競技が、世間からは見えない逆境と闘っている。
カヌー競技もそうだ。84年ロス五輪では男子カナディアン(フラットウオーター)で6位入賞などの実績があるが、日本連盟の甲斐信幸強化部長(53)は「日本も強化が進んで層が厚くなったが、それ以上に世界の実力が上がってなかなか追い付けない。出場枠の獲得さえ状況は厳しい」。
海外遠征などの強化費の大半を自己負担に頼らざるを得ないし、マイナー競技だからこそ「競技生活後の選手のキャリア」設定にも奔走する。「組織にとっても、もう一段飛躍する時期特有の苦労ですから、楽しみでもあるんですが」。
遠征は自己負担
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| 練習は約2時間、凍えるような冷気の中を上陸して、やっと夕食だ。日によっては後輩の仲間たち数人も参加する |
闇に慣れた目に、竹下選手のカヤックは決して豪快ではなかった。冷静で、余計な抵抗を受けないように常に艇の水平を保ち、滑らかに旗門を抜ける。昨年9月、ブラジルの世界選手権で24位に入り、五輪出場権を獲得した。この種目の五輪代表は史上2人目だ。
「中学のころは転覆が怖かったけど、一昨年の世界ジュニア(9位)や昨年のユース五輪(2位)で自信が付きました。海外に行くと年に何百万円もかかるけど、バイトはしていません。お金でなく、今はカヌーで恩返ししたいんです」。 安藤選手には安藤選手の物語がある。カヌーが盛んな青梅市育ちだが、初めは釣り少年だった。こぎ始めたのは中学3年。すぐに夢中になった。98年には「無謀といわれながら」仲間3人と欧州へ長期遠征した。「毎日80円のピザだけで我慢した」。世界に強化の場を求める新しいスタイルのパイオニアとなった。 シドニー五輪では23位、昨年もW杯の初戦15位など海外で大きな力を発揮するタイプだが、マイナー競技だけにやはり資金がネック。「今季は外国人コーチと契約できず」北京の出場権はまだこれからの勝負だ。 「五輪も大事です。でも誰にも見てもらえないけれど、この暗闇で一心不乱にこぐ毎日の一瞬一瞬も、私には同じように大切で、真剣なんです」。竹下選手がぽつりと言った。 胸打つ言葉だった。- Thanks
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【郵送宛先】 郵便番号104・8055 日刊スポーツ新聞社 編集局 後藤新弥
- プロフィル
- 後藤新弥(ごとう・しんや) 日刊スポーツ編集委員、61歳。ICU卒。記者時代は海外スポーツなどを担当。CS放送・朝日ニュースターでは「日刊ワイド・後藤新弥のスポーツ・online」(土曜深夜1時5分から1時間。日曜日の朝7時5分から再放送)なども。
本紙連載コラム「DAYS’」でミズノ・スポーツライター賞受賞。趣味はシー・カヤック、100メートル走など。なお、次ページにプロフィル詳細を掲載しました。
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