第７９回全国高校サッカー　富山一対東北　ヘディングシュートを放つ東北・今野泰幸（２００１年１月５日）

　サッカーＪ２東京の日本代表ＤＦ今野泰幸（２８）が青森、秋田、岩手の北東北で開催される全国高校総体（インターハイ）に出場する選手たちに熱いエールを送った。今野は東北高（宮城）２年の９９年インターハイに出場。久御山（京都）と初戦で激突し０－１で敗れた。だが、今野にとっての高校３年間は、ザックジャパン不動のセンターバックに上り詰める礎を築いた時期。当時を振り返り、若きアスリートに「悔いのないプレー」を訴えた。また、東日本大震災で被害を受けた宮城出身。被災地での開催に「意味のあること」と強調した。

　－高校２年の夏、岩手で開催されたインターハイに出場した

　今野　高校２年で３年生の試合に出たばかりだった。将来の進路も決まってなくて、全国で勝てば目をつけてくれる人もいるという期待があった。野心は持ってましたよ。目の前の相手に負けたくないという気持ちと、自分をアピールする場にしたいという気持ちの２つがあった。

　－だが、結果は０－１で久御山に敗れた

　今野　０－１でしたっけ。なんとなく覚えてます。なんか、自分たちの力を出せないままに終わってしまったというか、全国というプレッシャーに負けてしまったというか。そういう感じで、あっさり終わってしまったという気がしますね。全国の経験がなかったから、ビビってしまったというか。おれたちにとっては、相手がすべて格上のチームに思えた。負けた後は悔しかったことを今でも覚えてますね。借りを返したいという思いが強かったです。でもこれが、ぼくのスタートになった。

　－高校時代とは

　今野　大森貞夫監督（現宮城・東北工大高監督）との出会いは大きかったですね。あいさつなど礼儀に厳しかった。「はいっ」と返事を大きな声で言わないとしっぺをされたり。これが痛いんですよ。ぼくは中学時代の実績がなかった。ブランメル仙台（現Ｊ１仙台）のユースのセレクションに参加したけど、結果はだめで。公立の強豪校だった宮城工を受験したけど、倍率が高く落ちて。それでも県内で強い高校に入りたかったから東北高を選んだ。一般入試で受かりました。１００人以上の部員がいて、うまい人が多かったので刺激になった。

　－東北高で学んだこと

　今野　東北は伝統的に３－５－２なんです。センターバックは相手のＦＷをマンツーマンでマークする。２年でストッパーになって、何も考えずに必死に相手ＦＷをマークしてました。３年でボランチを任された。両方のポジションでプレーできたことは、今でも生きているし、その後のサッカー人生においてすごくいい経験になりました。

　－高校卒業後の進路については

　今野　ソニー仙台に決まっていたんですよ。サラリーマンをやりながら、サッカーを続けようと思ってました。ところが、当時の監督さんが女優の長沢まさみのお父さんの長沢和明さんで、長沢さんが懇意にしているＪ２札幌の岡田監督に「いい選手がいる」と紹介してくれた。札幌に２泊３日で練習参加したら岡田監督が認めてくれて、３年の全国高校選手権の前に入団が内定しました。岡田監督には面接で「プロは武器がないと生きていけない。きみの特長は相手からボールを奪うのが速い。その長所を信じてプレーしろ」と言われました。今まで、自分でも漠然としていた武器を、明確に言ってもらえたので、その後につながりました。ワールドカップ南アフリカ大会の監督が岡田さんだったので、なんか縁がありますねよね。

　－被災地支援にも積極的で、東京の選手たちの協力も得て、物資を段ボール約７０箱分届けた

　今野　仙台の実家はライフラインが途絶えた時期もあったけど、なんとか無事でした。ただ、宮城の沿岸部に住んでいた高校時代の後輩が被災して。幼児がいて、震災当時はおむつがなくて困っていた。でも、自分たちのことよりも、子どもを思う気持ちを感じて強いなあと。逆に、こっちが勇気をもらうというか。４月１１日には宮城県内の４カ所を訪問しました。精神的にも厳しい状況だったと思うけど、笑顔で接してくれて、こちらが励まされました。

　－３月末には東北のサッカー環境の復興支援を目的に、東北サッカー未来募金を開設した

　今野　これはぜひ、宣伝してほしい。宮城県サッカー協会のホームページに口座番号などがアップされてます。東北のサッカー少年たちには、ぼくらに続く東北出身のＪリーガーになってほしい。この苦難を乗り越えたら、きっと精神的にも強い選手になれると思うから。支援は継続が必要だと思う。ぼくらも、少しでも力になれたらと思っています。

　－今夏の高校総体が被災地を含む北東北で開催される

　今野　すごく意味のあることだと思います。まだまだ、つらい思いをしている方々がたくさんいると思う。被災した方の中には観戦にくる人もいるかもしれない。軽々しくは言えないけど、スポーツには、そういった人たちを勇気づけたり、パワーを与えたりする力を持っていると思うんですよ。それから大会に携わっている方々は成功させるためにすごく頑張っていると思います。ぜひ、若い高校生１人１人が悔いのないプレーをして、素晴らしい大会にしてほしい。

　◆こんな人◆

　◆今野泰幸（こんの・やすゆき）　１９８３年（昭５８）１月２５日、宮城県仙台市生まれ。東北高２年時にインターハイ、国体に出場。３年時には全国選手権で８強。０１年札幌入りし、０４年東京へ移籍。０３年ワールドユース選手権（現Ｕ－２０Ｗ杯）、０４年アテネ五輪出場。０５年８月３日の中国戦でＡ代表デビュー。今年１月のアジア杯は全試合フル出場で優勝に貢献。ザックジャパンでは唯一、フル出場を続けている。国際Ａマッチ４８試合出場。趣味は温泉、卓球、陶芸。１７８センチ、７３キロ。