<インディカー・シリーズ第3戦:インディジャパン300マイル>◇20日◇決勝◇栃木・ツインリンクもてぎ◇1周1・5マイル(約2・4キロ)×200周

 モータースポーツ界に新たな歴史が刻まれた。女性ドライバーのダニカ・パトリック(26=アンドレッティ・グリーン)が、1時間51分2秒6739で制し、初優勝を挙げた。男性レーサーが大多数を占める世界の主要自動車レースで、女性が勝つのは史上初の快挙だった。

 黒とスカイブルーのマシンが、勢いよく最後のコーナーを立ち上がった。「みなさん、インディカーの歴史が変わります!」。場内実況にあおられ、5万人の観衆が興奮した。レースをリードしているのはパトリック。157センチ、45キロのきゃしゃな女の子が、偉業をやってのけた。

 最高時速350キロ超の世界最速バトルを、どの男たちもより速く駆け抜けた。カストロネベス、ディクソンらの先行争いを、離れた5番手で追走。展開の読みも完ぺきだった。「最後は(2位の)カストロネベスとの争いになると分かっていた」。148周目の最終ピットイン後は、燃料不足による燃費走行やピット作業で脱落するライバルをしり目に徐々に浮上した。198周目、減速走行を始めたカストロネベスをかわすと、そのまま先頭で栄誉のチェッカーを受けた。

 自動車レースは男性と同条件で、同時に戦う数少ないスポーツ。体格の差も考慮されない男社会で、パトリックは道を切り開いた。「レースに女も男も関係ない」が口ぐせ。母ベブさんに男女の分け隔てなく育てられた。昨季第6戦(ミルウォーキー)では、レース中に接触したウェルドンに殴り合いのケンカを挑んだこともあった。

 昨季最終戦(デトロイト)で2位に入るなど、着実に力を上げていた。一方で端正な顔立ちばかりが注目され、人気先行と言われることも。苦悩を知るアンドレッティ・オーナーも「これで彼女は亡霊を振り払うことができるだろうね」と胸をなで下ろした。

 マシンを降りたパトリックは、髪をかき上げてクールなふりを見せたが、顔はくしゃくしゃ。「無線でみんなに祝福されたら涙があふれてきちゃって…」。ベブさんに抱き寄せられると、1人の女の子に戻って大声で泣いた。【森本隆】