フィギュアスケートの世界選手権開幕を翌日に控えた24日、上海で公式練習が行われ、ソチ五輪王者の羽生結弦(20=ANA)が初練習を行った。会場の東方体育中心は、昨年11月のグランプリ(GP)中国杯で閻涵(中国)と激突し、全身5カ所を負傷した会場。昨年末には腹部の手術を受け、1月末の右足首の捻挫と試練は続くが、日本人初の2連覇を目指し、流血までした因縁のリンクに戻ってきた。

 そっと氷を触り、足を踏み入れた。136日ぶりに帰ってきたのは、頭から流れる血で赤く染めたリンク。昨年11月8日、フリー演技を控えた6分間練習で起きた激突事故の悪夢がよみがえるはずだが、それを感じさせない勢いで、羽生が銀盤に滑り出した。観客席から黄色い声援を浴びながら、「戻ってきたな」と感じていた。

 今季は中国杯以降も困難が続いた。激突で全身5カ所を負傷した影響を受けながらも、昨年末の全日本選手権で3連覇を達成。だが、直後に再び悲劇が襲った。大会前から感じていた腹痛が「尿膜管遺残症」と診断され、腹部を4センチ切る手術を受けた。2週間の入院後、約4週間は自宅で療養。初めて体にメスが入り「筋肉の感覚に誤差があった」という。焦って練習する中で足首を負傷。また2週間は動けず、一時はこの舞台に「立てないかも」との思いもよぎった。

 本格的な練習に打ち込めたのは3月に入ってからだった。ただ、いまもテーピングはしているが、「こうやって滑ることができている。ほぼ万全の状態。不安はない」と強気な言葉も出た。この日は2種類の4回転ジャンプを成功させるなど、回復ぶりを自ら示しはした。

 中国杯については「皆さんが思っている以上に気にしていない。あれは過去」と言い切る。アクシデント続きで迎えた今季の大一番。男女を通じて日本人初の連覇に挑む大会。20歳の五輪王者は、再び逆境を打ち破るか。