ソチ五輪金メダリストの羽生結弦(20=ANA)が、因縁のリンクで首位発進を決めた。男子SPは冒頭の4回転トーループを失敗も、鬼門だった終盤の3回転ルッツに成功し、今季自己ベストの95・20点。昨年末に腹部の手術、1月末には右足首を捻挫と、ルッツに響く不安を抱えながら底力をみせた。昨年11月の中国杯では激突事故に襲われた会場で、日本人初の2連覇が見えてきた。

 勝負は演技開始から1分58秒。終盤のルッツ-トーループの連続ジャンプだった。羽生はいつもより慎重に見える速度で、軌道に入っていった。フワリと浮くと、鮮やかに着氷。続けたトーループも決め、首位の座をたぐり寄せた。

 羽生 本当に緊張しました。今季はずっとミスが続いていた。いろいろなことがリフレインした(思い返された)。

 鬼門だった。SPのルッツは今季4戦すべて失敗。腰痛の影響からか、安定感を欠き続けた。今大会は、さらにマイナス要素が加わった。昨年末に「尿膜管遺残症」で腹部を4センチ切る人生初の手術。ルッツは前かがみになって跳ぶため、わずかな筋肉の感覚の違いが響く。周囲には「疲れてくるとおなかに力が入らない」と漏らしていた。

 さらに1月末には右足首を負傷した。足首はもともと、スケーター理想の体形ゆえの持病を抱えていた。迫力ある演技を生む膝下の長さに筋張った脚。試合の時は体脂肪率が3~4%という細身の体は、脚にも一切の余計な脂肪がない。だからこそ逆に衝撃に弱い。昔からくるぶしの外側に水がたまりやすく、抜いてはたまっての繰り返しだった。そこを再びの負傷。ルッツは右足のつまさきで氷を蹴って跳び上がるため、影響は直接的だった。

 冒頭の4回転トーループで、両手をつくミスがあった。「試合勘がなくなりすぎていた」と、失敗から滑り出した。だからこそ、この日はルッツの成功に2連覇への鍵があった。そして、不安をぬぐい去る華麗な1本を決めてみせた。

 昨年11月の中国杯の激突は忘れられない。「ああいうアクシデントがあって、実際にすごく痛かったですけど…」と振り返る。ただ、その場で苦戦してきたルッツを克服し、逆境で前進した。ケガを乗り越え「本番を滑れたのでうれしかった」。今日28日のフリーでも滑る喜びを体現し、また1つ偉業を積み重ねる。【阿部健吾】