元世界女王の山本美憂(40)の長男アーセン(18=GSA)が秒殺発進した。1回戦で門田光司(東洋大)と対戦。開始からパワフルな動きでポイントを稼ぐと、わずか42秒でテクニカルフォール勝ちした。母美憂がセコンドに付き、72年ミュンヘン五輪7位の祖父郁栄さん(70)叔父“KID”徳郁(38)も応援に駆けつけた。レスリング一族のサポートを受けながら「山本家の最終兵器」が、最高のスタートを切った。

 やはり怪物だった。開始19秒。アーセンは門田のバックを取ってポイントを奪取。続けざまのバック投げでポイントを稼ぐと、最後は組んでからの胴タックルで相手を倒す。わずか42秒。8-0のテクニカルフォール勝利で初戦を突破した。試合後はセコンドの元世界女王の母美憂とハグをして喜びを分かち合った。

 だれもが緊張する初戦。アーセンも不安はあったが、母からもらった「ガンガン攻めなさい」の言葉を信じた。13歳から強豪国ハンガリーにレスリング留学。母の前での試合は5年ぶりだった。「お母さんがそばにいて心強かった。いいところを見せたかった。大好きなんで」。元五輪選手の祖父郁栄さん、叔父“KID”徳郁も観戦。山本家の強い絆は力になった。

 レスリング一家の怪物も、この1年は地獄の日々を送っていた。昨年はまさかの1回戦負けで屈辱にまみれた。前年に17歳以下の世界選手権で優勝した喜びは消滅。夜はベッドに入っても時計の針の音が気になって眠れない。「うるさくて、狂いそうになった」。競技への恐怖感も芽生え、やめることも考えた。

 救ってくれたのは、大好きな母だった。カナダ在住の母からフェイスブックやスカイプで「自分を信じなさい」と励まされた。この日の初戦突破で1年前の悪夢を消した。「地獄の1年は、今日をもって吹っ切れた。(母は)モチベーションを上げてくれたのでメンタルは強くなった」と感謝するように言った。

 今日26日は2回戦。順当に勝ち進めば決勝を含めて計4試合戦う。「明日が本番。気を抜かずに楽しみたい」。来年リオデジャネイロ五輪での金メダル獲得が目標。1年前のトラウマを振り払った怪物に怖いものはない。【田口潤】

 ◆山本(やまもと)アーセン 1996年(平8)9月8日、神奈川県生まれ。出生名は池田怜。母が格闘家のエンセン井上と再婚後に、アーセンに改名。4歳からレスリング開始。全国少年少女大会では5度優勝。13歳でハンガリーへ。ブダペストのバビロン高に通学し、練習に励む。年に2度開催されるハンガリーの国内選手権では10年から無敗。13年世界カデット選手権優勝。169センチ。