女子60キロ級の栄希和(21=至学館大)は、大逆転で優勝。残り1秒まで至学館高、大の先輩でもある伊藤彩香(22=東新住建)に2-4とリードを許したが、残り1秒でバック投げの大技を決めて6-4と逆転し「とにかく点をとることしか考えていなかった。夢中でした」と振り返った。

 父は日本協会強化本部長で至学館大の監督でもある栄和人氏。母は元世界女王の坂本涼子さん。指導者をしていた両親の影響もあって、小さいころからマットでは遊んでいた。しかし、本格的に取り組んでいたのは音楽(トロンボーン)。愛知・大府北中2年の時、わずか3カ月の練習で全国3位になって、両親を追うことを決意。父が指導する愛知・至学館高に入学した。

 両親が離婚してから坂本姓を名乗っていたが、至学館大入学と同時に栄姓に変更。「何かと都合がいいからと言われて」と栄氏は照れながら話した。数年前までは、栄氏も「日本代表クラスは難しい」と話していたが、ここ1、2年で急成長。パワーとスタミナで87年世界選手権3位の父とスピードとテクニックで92年世界選手権優勝の母、両親の長所を受け継いで、日本の頂点に立った。

 「運動神経は悪いし、何をやっても不器用。でも、努力でここまで来た。涼子とよく似てるよ」と、父は愛娘と元妻を比べながら愛情たっぷりに言った。この日は55歳の誕生日。希和から「おめでとう」と言われて、普段の厳しい監督の顔を忘れて喜んだ。

 60キロ級は非五輪階級、希和も「リオは考えていません」と話したが、将来的には「五輪に出たい」気持ちもある。栄氏は「58キロ級で伊調馨という大きな壁に挑戦するのもおもしろい」と言った。

 父に最高の誕生日プレゼントを贈り、母からの「ラスベガスに連れて行って」という願いにこたえた孝行娘。希和が世界に挑む。