2020年東京五輪・パラリンピックのメーン会場となる新国立競技場の建設見直し問題で、デザインを担当した女性建築家ザハ・ハディド氏のロンドン事務所が安倍晋三首相に書簡を送ったことが28日、分かった。同事務所は同日、声明を発表し、当初からコスト削減を日本スポーツ振興センター(JSC)側に提案していた経緯と今後、改良案を提示する用意があることを訴えた。

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 ザハ事務所の声明要旨

 ▼今後の計画 19年ラグビーW杯を迎えられる新国立を、予算に柔軟に対応したものにし、日本のスポーツを何代も支えるホームスタジアムにできる用意がある。

 ▼日本スポーツ振興センター(JSC)への抗議 当初からJSCに対し、コスト削減を訴えてきた。過熱する建設市場の中、十分な競争がない中、施工業者(ゼネコン)を早い段階で選ぶことを警告しましたが、私たちの提案は聞き入れられず、その結果、高いコストを招くことになった

 ▼キールアーチ デザインの中で特にアーチのことが言及された。このアーチは標準的な橋の建設技術を使い、半透明で軽量な膜素材の屋根を支えるので、観客に質の高い光を落とすことができる。将来に渡り、国際的なイベントに使われるよう、考慮されている。この屋根構造はスタンドと屋根を並行して施工できる利点がある。これは座席の端から屋根を支える形式に比べると、1番重要な施工時間を縮める役割がある。スタンドの後ろから支える屋根は、スタンドが完成した後でないと、できない。設計チームはこのアーチ(2本)のコストを約230億円と見積もっており、承認された予算の10%以下だ。

 ▼総工費高騰の要因 東京五輪・パラリンピックが決まった後、東京は建設需要の増加、限られた労働力、大幅な円安による輸入原材料費の増加、東京のインフレが建設費高騰の原因。13年7月から今年7月の間、東京の建設コストは平均25%上がり、今後とも増加すると言われている。

 ▼ゼネコン批判 ゼネコンからの高い見積もりに対し、設計チームとJSCはいくつもの減額案を作った。ゼネコンとひとつのチームとして作業を行うことがベストだと提案し続けたが、一緒に作業することは許されず、不必要に高いコストと、完成の遅れを招くこととなった。ゼネコンがリードするという(ゼロベース後の)国立競技場が非常に低い水準の競技場になってしまうことを私たちは危惧している。それは将来における使用方法を限ってしまう。すると五輪後に長期的な使用に耐えるためのさらなる投資が必要となる。世界にも同じ例はある。しかも、五輪後に建設費がさらに上がる可能性も否定できない。より競争力のある調達方式や、協調性のあるゼネコンと作業を行っていれば、19年ラグビーW杯を開催できた。