男子400メートル個人メドレーで瀬戸大也(21=JSS毛呂山)は、絶不調の状態を、わずか3日で立て直し、連覇で来年リオデジャネイロ五輪代表の座をつかんだ。5日の200メートルバタフライでは6位とメダルを逃し、200メートル個人メドレーでは決勝すら進めなかった。どん底から世界の頂点に立つまでの3日間。その裏には<1>泳ぎの改善<2>指導方針の変更<3>究極のポジティブ思考があった。

 明らかにパニック状態だった。5日の200メートル個人メドレー準決勝。今季世界ランク2位で金メダルを狙ったはずが14位で決勝にすら進めない。

 瀬戸 正直怖いです。何が起こっているか自分でもよく分からない。

 約50分前には世界ランク1位だった200メートルバタフライで6位に沈んだ。心身ともにボロボロだった。

 ◆<1>泳ぎの改善

 日本チームのレース分析班が、自己ベストを出した4月の日本選手権の映像と比較。バタフライ、平泳ぎで、呼吸のタイミングが早く、体が立ち、体重が前に乗っていないことが判明した。

 大会前から梅原孝之コーチ(45)とともに金メダル=五輪代表を目標にした。3年前のロンドン五輪は代表選考会直前にインフルエンザにかかり出場権を逃している。その五輪でライバル萩野公介(20)は銅メダルを獲得。初の五輪への思いが強いあまり、力みは隠せなかった。

 ◆<2>指導方針の変更

 梅原コーチは、ある先輩コーチから「必ず金を取ろうではなく、力を出し切らすようにするべき」とアドバイスを受けた。「今まで目標をぶれないようにしてきたが、時に妥協することも負けではないと思った」。決勝レース前には瀬戸に「今持っている力を出せ。メダルにはこだわるな」と肩の力を抜かせた。

 得意のバタフライで、最初の50メートルでトップに立つ。2つ目の背泳ぎで一瞬トップを譲るが、平泳ぎですぐに抜き返す。最後の自由形では体1つ以上リードしてゴール。圧勝後、瀬戸はメダルなしだった2種目の結果に「自分を強くするために、神様が与えてくれた」と前向きに振り返った。

 ◆<3>ポジティブ思考

 6月欧州GPで練習用フィンを盗まれたが、その後、最新のフィンを買えたので「盗まれて良かった」。米国の高地合宿直前に疲労からいらつくと、テレビ番組「金スマ」の松岡修造の「修造語録」特集を見た。ミスから成功を導く「失敗したらガッツポーズ」などに感銘を受けた。子供時代からライバル萩野に負け続けたことで両親から「あの子がいるから強くなれる」と言われた。以来、貫くポジティブ思考が土壇場の切り替えにいきた。

 ロンドン五輪出場は逃したが、その後の世界の舞台で、大崩れはなかった。梅原コーチは「試練。五輪でも同じことが起きて短期間で立て直す必要があるかもしれない。できることは全部やろう」と言った。瀬戸はコーチの教えを忠実に守り、レースでは「隣のレーンの選手に勝つこと」だけに集中した。

 前回大会は萩野の陰に隠れ、ノンプレッシャーでの優勝も、今回は金メダル候補として逆境からはい上がった。「調子が悪い中で、金をもぎ取ったのは貴重な経験。金メダル以上の価値がある」と胸を張った。内定した来年リオ、そしてその先にある5年後の東京へ「苦闘の3日間」は大きな財産になった。【田口潤】