男子81キロ級の永瀬貴規(21=筑波大)が世界の壁をぶち破った。準決勝で昨年王者アブタンディル・チリキシビリ(24=ジョージア)を隅落としで有効を奪って下すと、決勝では一昨年覇者のロイク・ピエトリ(25=フランス)に抑え込みで一本勝ち。世界的に選手層の厚く現階級制になった99年以降、唯一日本勢が勝てなかった階級で金メダルをつかんだ。五輪と合わせても、00年シドニー大会の滝本誠以来実に15年ぶりの頂点に立った。

 力業ではなく、力業の相手を「骨抜き」にして倒すのが永瀬流。長いリーチを生かして、絶妙な体さばきで力を逃がす。まともには受けないで受け流し、逆に小さな力で大きな力を生んで技を仕掛ける。そのスタイルにある指導者は「てこの原理を使っているようだ」と形容する。いなして、いなして、隙を探る。持ち味の足技から組み立てて、勝機を見いだしていく。

 チリキシビリとの準決勝で意識したのは「組み手で1つ先にいくこと」。指導で先行された試合では敗れていた。左右どちらでも組めるテクニシャンに対し、徹底して引き手で相手の右そでを抑える。力任せではなく、長い腕を器用に使いながら、執拗(しつよう)に。狙ってきた奥襟も抜群の技術でずらして、技の機会を与えなかった。

 力に技で勝つ。世界舞台では15年ぶりに現れた日本人王者。21歳の若者は独自のスタイルで、16年リオデジャネイロ五輪へと進む。