ソチ冬季五輪王者の羽生結弦(20=ANA)がまさかの出遅れをみせた。演技後半のジャンプで違反が重なり、2つが「0」点。73・25点の6位と出遅れた。

 混乱の15秒間だった。「新しい(失敗)パターンだと思う」。羽生がそう振り返った場面は、基礎点が1・1倍になる演技後半に組み込んだジャンプだった。

 まずは4回転トーループ(T)。踏み切りのタイミングがずれたのか、跳躍の途中で両脚を折りたたんだ。回転数は2回。とっさの反応で回転を抑えて転倒こそ逃れたが、結果的にはこれがあだとなった。問題の場面は続く連続ジャンプ。2連続3回転の2つ目のTが2回転になった。

 結果、2回転となった最初のTは「3回転または4回転のジャンプ」というSPの必要要素を満たさず、2度の2回転Tを跳んだことで連続ジャンプまで違反と見なされた。基礎点だけで合わせて約20点が見込めた2つのジャンプがともに「0点」の採点。わずか15秒間で重ねたミスが、明暗を分けた。自身初の「失敗パターン」を感知した演技直後は、氷上でがっくりと肩を落とし「ずっと、ぼうぜんとしていた」。

 これまで、ジャンプの重複違反には敏感だった。むしろ目立ったのは、冷静な判断。4月の国別対抗戦でも3回転Tだった連続ジャンプの後半を2回転にして回避してみせていた。今大会、その判断を曇らせた要因は心理面。原因は宿敵のチャンだった。

 ソチ五輪の優勝を競り合った相手は、昨季は1年間の休養を選んだ。復帰してきた元世界選手権3連覇の24歳が、先に滑った演技で精彩を欠いた。そこで生まれたわずかな余裕で、「1個1個(の要素)に集中はしていなかったのかもしれない」と認めた。

 「何が駄目だったか振り返る気持ちにまだ切り替わっていない」。ただ、6位のままでは、3連覇が懸かるGPファイナル進出は厳しくなる。時間はない。トップとの差が7・63点しかないことを救いに、「フリーを思い切ってやるだけ」と言葉を絞り出した。

 ◆羽生のSP 6位発進はGPシリーズでは、シニアデビュー年の10年ロシア杯に並ぶ最低順位。73・25点も、同年のNHK杯(69・31)ロシア杯(70・24)に続く低い得点となる。対象を国際スケート連盟(ISU)公認大会に広げると、SP最低順位は13年世界選手権の9位(75・94)。

<SPジャンプの規定>

 3要素が設定されている。

 (1)コンビネーションジャンプ=連続3回転か3回転+2回転。男子は4回転+3回転も可能。

 (2)ステップからのジャンプ=3回転以上。男子は(1)と異なる種類なら4回転も可能。

 (3)アクセルジャンプ=3回転か2回転。

 コンビネーションで同一ジャンプを跳ぶのは問題ないが、(1)と(2)、(2)と(3)、(1)と(3)で同一ジャンプを跳んだ場合は、後に跳んだジャンプの得点がなくなる。今回の羽生は(1)と(2)の2回転トーループが重なり、後の連続ジャンプが0点となった。なお、フリーには3回転以上は同じ種類を3回以上は跳べないなどの規定がある。