女子70キロ級は新井千鶴(22=三井住友海上)が優勝し、五輪代表争いをリードした。

 コーチからの指示は「どこを持っても(技を)かけろ」だった。新井は、試合で考えすぎることをやめた。大野との決勝前も「深く考えないで、久々の決勝を楽しもうと」。

 試合は不用意な場外を重ね、1分36秒までに指導3つのリードを許した。ただ、4つで反則負けの危機にも、「負けている感じはしなかった」。172センチの長身は決して腰を曲げず、挽回の前進。内股を軸にはね上げ続け、残り12秒で指導数で並ぶ。ポイント先取の延長戦でも前に。3分29秒、大野がかけ逃げの指導を取られ、13年以来2度目の優勝が決まった。

 とにかく真面目。周囲を質問攻めにする熱心さはいいが、聞きすぎる。所属の中村主将は「言われたことを全部やってしまう」と指摘する。自分の組み手にこだわり、攻め手が遅くなる悪癖から長く脱せなかった。夏の世界選手権では、9人の女子代表で唯一メダルに届かず、「ここまで落ちたら上がるしかない」といよいよ開き直った。

 だからこそこの日は、「どこを持ってもかけろ」の声が響いていた。「特に延長戦は必死で、がむしゃらで」。技が切れる大器にとって、その経験が殻を破るためのきっかけにもなるだろう。【阿部健吾】

 ◆リオ五輪代表の選考 男女とも国内外大会の2年間の成績をポイント換算し、参考材料とする。今大会は対象の1つだが、国内唯一の国際大会で候補者が出そろうため重要な意味を持つ。超級を除く代表は、来春の全日本体重別選手権を最終選考として決定する。