ノルディックスキー・ジャンプ男子の葛西紀明(43=土屋ホーム)が、前人未到のW杯500戦出場の伝説を作る。今日3日、W杯遠征のため欧州に出発。このまま順調に出場すれば3月4日のビスワ大会(ポーランド)で大台に到達する。1月30日には待望の第1子となる長女が誕生し、発奮材料もできた。ギネス世界記録5つを持つ「ギネス男」が、世界に金字塔を打ち立てる。

 胸の高鳴りを抑えることができない。葛西は2日に道内を出発。空港では1月30日に誕生した長女としばしの別れとあって「寂しい」とパパの顔を見せたが、再び始まる遠征の話になると一気にアスリートの顔に変貌した。「競技を始めた時はまさか500戦も出るなんて考えられなかった。500戦目に表彰台、優勝できたらいい」。新たな伝説に向け決意を伝えた。

 カウントダウンに入った。3位に入り、最年長表彰台記録を更新した1月31日の札幌大会でW杯の出場が490戦目になった。すでに世界最多出場記録だが、節目の大台へ残り10戦。前半戦の遠征は、何度か帰国し、出場をキャンセルした大会もあったものの、今遠征は3月20日の最終戦まで帰国しない。そのため、順調なら同4日に到達。すでに持つ「W杯個人最多出場」のギネス世界記録を更新する。「ここまでこられたことはすごいことだと思う」と感慨深げだ。

 決して平たんではない道を走り続けてきた。98年長野五輪の金メダルメンバーから外れたことはあまりにも有名な話。その前年には母幸子さん(享年48)を亡くした。さらに、ことし1月13日には妹久美子さん(享年38)が他界。悔しさと苦しみと…。背負ってきたものは誰よりも大きく、重いが、その度、乗り越え何度でも立ち上がった。

 共に戦う“仲間”の存在も原動力だ。「ここまでやってこられた一番の理由はライバルがいたからこそ」。過去には原田雅彦(現雪印メグミルク監督)岡部孝信(現雪印メグミルクコーチ)船木和喜(フィット)…、今は伊東大貴(雪印メグミルク)らが立ちはだかるが、人一倍の負けん気で対峙(たいじ)してきた。「勝ちたいという強い思いがある」。レジェンドは二十数年の歴史を胸に刻み込み、世界に挑み続ける。【松末守司】