グレコローマン66キロ級の井上智裕(28=三恵海運)が、五輪初出場を決めた。準決勝でカザフスタン選手を2-1で破り、決勝に進出。2位以内で五輪代表を決め、勢いに乗って優勝を果たした。12年ロンドン五輪を逃して1度は一線を退いたが、高校教師の職を捨てて「プロ」として再出発。執念で五輪切符をもぎとった。日本は今大会で女子1、男子グレコ、フリー各2の出場枠を獲得。残る男子各4階級は世界予選(4、5月)でリオを目指す。

 夢の五輪へ、井上は耐えた。準決勝、2-1とリードして迎えた残り1分半、警告でパーテールポジションをとらされたが、相手の攻撃を受けながら腹ばいのまま逃げ切ると「練習通りに寝技の防御ができて、結果を出せた」と笑顔で話した。

 「五輪に出るのが夢だった」と話したが、1度は諦めた。11年末の全日本選手権敗退でロンドン五輪を逃して、一線を離れた。母校、兵庫・育英高の教師としての仕事に専念し、レスリングは部活を教える程度。しかし、軽い気持ちで74キロ級に出場した翌12年の全日本で優勝。「やれるかも」の気持ちが湧いた。

 もう1度競技に専念するために、13年3月で高校を退職。地元・神戸の「三恵海運」に入社して「プロ」として再スタートした。母校日体大で学生たちと練習し、実力を伸ばした。「会社には感謝している。リオに出て恩返ししたい」という思いで五輪を決めた。

 教員を辞めるか悩んでいた時「あなたがやりたいのはレスリングでしょ」と背中を押してくれた妻裕美さんに「よく支えてくれた」と感謝した。この日、幼稚園の卒園式を迎えた6歳の長男と妻に「リオでも頑張っている姿を見せたい」と活躍を誓っていた。

 ◆井上智裕(いのうえ・ともひろ)1987年(昭62)7月17日、神戸市生まれ。兵庫・育英高時代からグレコで活躍し、日体大卒業後は母校の教師をしながらロンドン五輪を目指したが、国内予選で敗退。引退を決意した後の12年全日本選手権(74キロ級)で初優勝し、13年に同校を退職。三恵海運に入社し、14、15年全日本選手権優勝など力をつけた。170センチ。

 ◆リオ五輪への道 昨年の世界選手権、大陸予選で枠を取れなかった国は、世界予選第1戦(4月22日開幕、ウランバートル)、同最終予選(5月6日開幕、イスタンブール)に臨む。日本男子はフリーとグレコの各4階級に出場。基本的に昨年の全日本選手権の優勝者と準優勝が各1大会に出場し、優勝者が枠を取れば即代表内定。準優勝者が獲得した場合は、優勝者とプレーオフが行われる。