フィギュアスケートの世界選手権は30日に米国ボストンで開幕する。日本勢の活躍が期待される世界一決定戦を前に、10年バンクーバー五輪銅メダリストの高橋大輔さん(30)が登場。大会の展望だけでなく、羽生結弦、宇野昌磨、浅田真央ら選手の魅力を、類いまれな表現者ならではの観点から説き明かした。フジテレビ系による大会中継ではゲストで出演。スポーツキャスターなどにも挑戦する、今後についても語った。【取材・構成=阿部健吾】

<男子展望>

 羽生選手、普通にいけば再び王者になると思っています。そこに外国勢、そして宇野選手がどう食い込んでくるのかを楽しみにしています。誰がミスを少なくするかの勝負ですね。

 パトリック(・チャン)は前の試合の4大陸選手権がすごく良かったので、そのイメージが強すぎて、試合へのもっていき方が難しい可能性がある。逆に宇野選手は4大陸が良くなかった分、自分に活を入れて練習をしてきているので、変な緊張さえしなければ良いんじゃないかな。羽生選手は今季はずっと調子の波がないですね。変動が少ないので、盤石だと思う。

 羽生選手のジャンプは、いつも芸術だなと思って見てます。あの美しさはまねできない。跳躍の幅と高さがこれ以上ない比率で、軸も細い。体操の内村選手の回転がきれいといわれているけど、ああいうイメージです。僕もあんなジャンプを跳びたかったな。

 ただ、今はジャンプだけでない自分を作り上げようとしている。作品を1つのパッケージとして。ソチ五輪の頃はまだ粗さがあった。それがむしろショートプログラム(SP)の使用曲、エレキギターの「パリの散歩道」と合致していた。昨季からクラシックを使用したのは、丁寧に滑ろうとしているのかなと見てます。ステップやスケーティング、体の使い方はまだ磨けると見えているので、そこに伸びしろがあるし、それができれば文句の付けどころがない完璧なスケーターになると思う。

 宇野選手は体の使い方が好きですね。注目は手ですね、あのしなりです。ムチみたい。ただダラダラしているのではなく、神経が通っているけど、力感が抜けている。それは持ち味ですね。18歳にして表現という面が注目されていますが、まだ可能性が広がっていると思う。先があると確信しているので、現時点では表現が確立されているとは言いたくないですね。それくらい、期待しています。

 04年から新採点法に変わって、男子で4回転ジャンプが定着した時代を幼少期から見てきた若手が一気に現れてきた印象があります。4回転は当たり前で、その中で「もっともっと」というレベルを目指していた流れがあり、それが一気に出てきたタイミングが今季かな。そして、それがまた当たり前になっていく。羽生選手などはスピン、ステップも大事だという意識があって、パッケージとして考える段階に進んでいるのでは。

<女子展望>

 真央はどんな演技をするんだろう。見守っている感じになってしまいますね。今季は前半は良かったけど、後半はしんどそうで、試合でもしんどかった時があったと聞いたので。この3カ月でどう気持ちの切り替えができたか。楽しみと不安と両方ですね。彼女が現役やると決めたので、やると決めたらやるので、大丈夫だとは思いますけどね。真央はメンタル強いですから。肝が据わっている。

 彼女の滑りは年齢不詳です。25歳なのに少女感だったり、大人っぽさだったり。表現の振り幅がすごい。普通は年齢が増すにつれてその幅が難しくなってくる、表現者としては。でも、真央は真央。魅力的だなと思います。極端な話、ジャンプも要らない。滑っているだけで良い(笑い)。

 宮原選手は丁寧で隙がない感じ。練習も見させてもらったけど、曲をかけるとミスがなくて、見ていて安心。あとはまだコンパクトに思えてしまうところがあるので、演技の大きさがでてくるかどうか。本郷選手は派手です。大柄で1個1個のジャンプが大きいので、うまく決まれば点数が出る印象です。踊りはまだ上半身の使い方とか伸びしろはあるけど、演技に感動すること、心を動かされることがありました。そこがうまくでれば、はまるかも知れないですね。

<自身の近況>

 16日に30歳を迎えました。これからが本当の挑戦、そう思って30代は過ごします。14年に現役引退し、15年4月から米国ニューヨークに留学しました。8カ月間で学んだのは「自分の駄目さ」でした。人に甘えないで、もっと自分から行動しないと、と思ってましたが、やはりできなかった。でも、その駄目さを受け入れたからこそ、今はいろいろな人に頼って、スケートという場所があるうちはそれをしっかりやるべきと思っています。

 フィギュアの仕事はもとより、ダンスの舞台やキャスターの仕事などもしていきます。選択肢を多くいただいて、自分にできないことを分かっていきたい。軸はスケートで、それをやっている中で全然違うことがやりたいとなれば本物だと思う。中途半端に終わらずにやりたい。3、4年はがむしゃらに「挑戦」していきます!

 ◆高橋大輔(たかはし・だいすけ)1986年(昭61)3月16日、岡山県生まれ。8歳でスケートを始める。06年トリノ五輪8位。日本・アジア人として、10年バンクーバー五輪では初メダルとなる銅、同年世界選手権では初の世界王者に輝く。14年ソチ五輪6位。16-17年シーズンからはフジテレビ系のフィギュア中継にナビゲーターとして携わる。また同局のリオデジャネイロ五輪中継ではキャスターを務める。来月にはアイスショー「スターズ・オン・アイス」(大阪など)に出演、6月にはダンスショー「LOVE ON THE FLOOR」にゲストダンサーで出演予定。