2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会は25日、新しい公式エンブレムを発表、最終候補4作品のうち、A案の「組市松紋(くみいちまつもん)」を選んだ。作者は、アーティストの野老朝雄(ところ・あさお)さん(46)。シンプルで、日本の伝統を感じさせる面が評価された。投票したエンブレム委員21人中、13票を集める「圧勝」だったが、事前のネットアンケートなどの支持は低かった。エンブレム委員会は選考で「国民参加」「透明性」を重視したが、経過の全容は明かさなかった。

 佐野研二郎氏デザインの白紙撤回から約8カ月。異例の選び直しで、新しいエンブレムが決まった。日本の伝統色、藍色の四角形を組み合わせた「組市松紋」。デザインした野老さんは、広告業界を中心に活躍する佐野氏と異なり、建築を学んだアーティストだ。

 エンブレム委員会は25日、プロ野球ソフトバンクの王貞治球団会長ら21人の委員で投票を実施。野老さんのA案は1度目の投票で過半数の13票を獲得した。

 会見で宮田亮平委員長は「探して探して、大切なものをようやく見つけた印象。寡黙ながら多弁だ」と評価。委員会には「シンプルで日本の伝統を感じる」と評価の声だけでなく、「地味」「目がチカチカする」と否定的な声も寄せられた。1度で決まったことには、投票した委員からも「びっくりした」の声が出た。

 閉鎖的だった佐野エンブレム選考の反省から、今回は「国民参加」「透明性」が重視された。公募で1万4599作品が集まり、今月8日、最終候補4作品を公開し国民の意見を募集。延べ4万人から、約11万件の意見が寄せられた。

 ただ、今月11日の日刊スポーツのネットアンケートでは、朝顔をテーマにしたD案が1位。ヤフーは、「輪」をデザインしたB案がトップ。A案への支持は、必ずしも高くない。組織委に届いた意見の総評でも、A案は「ポジティブな意見と、ネガティブな意見があった」と、記された。

 またA案以外は、国際パラリンピック委員会(IPC)が敬遠するとされる「非対称」のデザイン。ほぼ左右対称はA案だけだ。佐野氏のケースでも重視された展開例がやりやすく、一部では「A案ありきではないか」の声も出ていた。

 選考結果と「国民参加」の整合性を問われた宮田氏は、「A案ありきの考えはない。非常に腹立たしい」と憤り、「(国民の)意見を集約、反すうした上で投票した。国民参加が無視されたり、ある流れで動いたことはない」と強調した。

 今月8日の会見では、商標調査の問題で、最終候補4作品の中に1度落選しながら「敗者復活」した作品があると唐突に発表され、波紋を広げた。宮田氏は、A案が「敗者復活」の作品ではないと明かしたが、具体的な選考過程を問う質問には、煮え切らない答えが続いた。だれもが納得できる「情報公開」には、ならなかった。【中山知子】