最多6度目の優勝を目指す昨季準Vの東芝が、初戦でクボタに22-19で逆転勝ちし、好スタートを切った。2年目でリーグ初先発のWTB松岡久善(23)が、2度の逆転トライでチームを勢いづけた。恵まれない環境をはね返し、強豪チーム入り。苦節も味わった男が、逆境を乗り越えてリーグ初トライを挙げた。

 劣勢をはね返す2トライだった。0-3の前半15分。松岡はゴールまで約25メートルでパスを受けた。軽いジャンプで1人、体をのけ反らせてまた1人かわす。3人目はスピードで振り切り、リーグ初トライ。「たまたまです」と言うが、10-14の後半17分にはタックルを受けながら左隅へ飛び込んだ。「ああいう牛若丸みたいな動きをするやつがいるのはいい」と期待した冨岡ヘッドコーチ(HC)の言葉を、トライで体現した。

 「友達に誘われて楽しそうだった」と、就職するつもりで入学した村野工高でで何となく始めたラグビー。素人だった松岡を指導した平位篤志監督(31)は「ちゃらんぽらん。ガリガリで」と振り返る。まっすぐいかないパス。横へのランも苦手。ただ突破力は目を見張るものがあった。「体を当てる恐怖心だけはなかった。素人ならではの『怖さなし』だった」(平位監督)。大学も強豪ではなかったが、トライアウトでTLの扉を開いた。

 東芝の1年目、初めて恐怖を感じた。初めて経験する最高峰の舞台。「できないことをやろうとした」。うまくいかず、悩んだ。手が震え、ボールが取れなくなった。練習でのパスですら、落球した。4月には指揮官に「今季は頑張らないと引退だ」と言われた。

 どん底の中、引退したFB立川ら先輩の言葉に救われた。「お前はもっと自分の感覚を信じろ」。吹っ切れた今夏。持ち味の強気の突破が戻った。今季初戦で先発に抜てきされ、強豪を勝利に導く2トライ。80分間のサクセスストーリーだった。松岡はマン・オブ・ザ・マッチのトロフィーを受け取ると、拍手を浴びながらチームの輪にかけ戻った。【岡崎悠利】