【トロント(カナダ)13日=高場泉穂】フィギュアスケート男子の羽生結弦(21=ANA)が、超高難度な演技構成で世界歴代最高点の更新を狙う。当地の練習拠点で練習を公開し、今季の演技を披露した。ショートプログラム(SP)とフリーに国際スケート連盟(ISU)公認大会で成功者のいない4回転ループを組み込み、フリーでは4回転4本に初挑戦。SPにはロック調のプリンスの曲を選ぶなど、合計300点超えを成し遂げた昨季以上の挑戦の年と位置付けた。

 転んでも、傾いても4回転ループを跳び続けた羽生の顔はいきいきしていた。

 4月の世界選手権後、左足甲の治療のため約1カ月半、完全静養した。リハビリを経て、本格的にジャンプを跳べるようになったのはここ2、3週間のこと。「滑らないときはすごくつまらなかった。本当にスケートが好きなんだな、と思いました。休んだことは意味があったと思います」。

 あらためて湧き上がったスケートへの思いが挑戦へと体を動かす。左足への負担が少ないということもあり、かねて練習してきた4回転ループを組み込むと決めた。ISU公認大会で決まれば世界初。「まだ(成功率は)50%くらい」だが、「跳べるジャンプを作っていきたい」と、9月の今季初戦から跳ぶ予定だ。

 さらに、久石譲作曲の2曲をアレンジしたフリー「ホープ&レガシー」では、4回転を従来の2種類3本から3種類4本に増やし、世界歴代最高点を出した昨季を上回る超高難度の構成に挑む。「1本目のループを降りたとしても、あと(4回転が)3本ある、後半に入っても、あと2本あるって思ってしまう」。超えるべき新たな山を見つけたように、羽生はいかに難しいかを楽しそうに語った。

 ジャンプだけではない。SPにはプリンスの「レッツ・ゴー・クレイジー」を選んだ。昨季までのピアノクラシックから一転、ロックにダンスミュージックが融合した80年代の曲。「アップテンポで見ている方も楽しめる。1つ1つの音に注意を傾け、自分もノリながら滑っていきたい」と、初めてのジャンルで幅を広げる。

 昨季の得点こそが壁だ。プレッシャーは「時々あります」。だが、気づいたことがある。「どのシーズンでもそうなんですが、自分の最高を更新したい、自分の今できる最高の演技がしたいと常に思っていた。思い返してみると何も変わらない」。挑戦することこそが、自分のスケート人生だ。「毎年毎年そう思ってきたし、今回も最高のプログラムになる」。滑れること、挑戦することへの喜びを胸にシーズンが始まる。

 ◆昨季と今季の基礎点の差 世界歴代最高得点を出した昨季12月のGPファイナルと今季(予定)のジャンプの技術点の基礎点を単純比較すると、今季の方が昨季よりSPで1・7点、フリーで7・64点上回る。ともに羽生にとって最高難度の構成となることが分かる。ただ、得点には基礎点に出来栄え点が加点され、スケート技術など演技構成点でも差がつく。例えば、昨季の4大陸選手権フリーでルッツを含む4種類4本の4回転ジャンプを史上初めて成功した金博洋(中国)は基礎点は101・20点だったが、出来栄え点と演技構成点を合わせて合計191・38点。羽生の昨季のGPファイナルのフリーの基礎点は95・19点で、合計は219・48点だった。