羽生結弦(21=ANA)が、今季初戦のSPで4回転ループを決め、88・30点で首位発進した。同ジャンプの成功は国際スケート連盟(ISU)公認大会で初めて。左足甲治療のため滑れず安静状態だった4月に、宇野昌磨が史上初の4回転フリップに成功。焦りと悔しさを乗り越え、2連覇のかかる18年平昌(ピョンチャン)五輪へ新たな武器を手にした。

 4月の世界選手権以来、約半年ぶりの試合だった。息を吐き、手を合わせる羽生の表情から緊張が伝わってくる。流れだすのは今年急死したプリンスの名曲「レッツ・ゴー・クレイジー」。最初のジャンプ。キーボード音とプリンスの声に合わせ、両脚を180度開き「イーグル」の体勢に入った。そのまま高く踏み切り、着氷。不敵な笑みで、史上初となる4回転ループを成功させた。

 だが、その後に予定していた連続ジャンプを失敗し、大幅に減点された。滑り終えると失敗した場所をスケート靴でトントンとたたき、顔をしかめた。偉業達成にもかかわらず演技後も表情が浮かない。「世界初というのはみなさんが驚く、うれしいニュースになると思うが、僕にとっては全く関係ない。実感がない」。自己ベストから20点近く低い得点を「ただただ悔しい」とこぼし、完璧な演技を求め「まだ、もう1回できる」とSPのやり直しを希望するほどだった。

 半年前も激しい悔しさの中にいた。左足甲の靱帯(じんたい)損傷の状態が悪化し、世界選手権を最後に医者から2カ月の安静を言い渡された。練習拠点のカナダのトロントで、治療や食料の買い物以外は全く歩かない生活。1週間は我慢できたが、それを超えると筋肉の衰えを感じ、滑りたいと体がうずいた。宇野が世界初の4回転フリップを成功したのが、ちょうどその頃だった。「もちろん悔しかった。練習したかった」と振り返る。

 それでも必死にこらえた。「『安静期間』という囲いがあったからこそ、いい意味で力を蓄えられた」。6月に氷上での練習を再開すると、左足に負担が少ないこともあり、4回転ループを精力的に練習。蓄えた悔しさの分、集中し、成功度も高まっていった。

 この日の4回転ループの出来栄え点(GOE)は0・80点。「もっときれいに跳べる。自分が目指すのはGOE(最高の)3がつくループ」。続くフリーでより美しく決めると誓った。【高場泉穂】